満足度★★★★
女性登山家によるK2無酸素登頂の顛末、周囲の人々の心模様を描きながら、彼女の挑戦の根底にあった思いをあぶり出す意欲的なエンターテインメント作品。ドラマティックで緊張感を途切らすことのない場面展開、演出で、特に段差をつかったシンプルなセット、白線、俳優の演技のみで山の厳しさを表現した終盤には見応えがありました。
また、主人公のサポート役をつとめる登山家役の松竹亭ごみ箱さんの奥行きのある存在感も印象に残っています。
主人公のモデルとなった登山家は男性で、がむしゃらで無謀ともいえる挑戦がしばしば批判された人物です。この作品ではそれを女性に置き換え、現代社会における女性のあり方への問いを山への挑戦と重ねて見せていました。
大学の登山サークルでの飲み会や訓練シーンのホモソーシャル感、マネジメント会社の社長が体現する(感動)搾取の構造などは、登山という特殊なテーマを背負ってはいるものの、現代女性の前に立ちはだかる壁としてもビビッドに機能していたと思います(一般の企業などでも、歴史があり規模も大きい組織ならそうした意識は残っているかもしれません)。また、田舎に住む妹をはじめ、立場や考えの異なる女性の登場人物を複数配したことも、より視野を高くする試みとして好感を持ちました。