黒い砂礫 公演情報 オレンヂスタ「黒い砂礫」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    鑑賞日2020/03/15 (日)

    「山に消えた女性の足跡をたどる」

    ネタバレBOX

     四角いブロックが組まれた舞台上は凹凸が目につき、SEの風音が耳に入る。明転すると、山中で人気登山家の前地悠子(宮田頌子)がビデオカメラを使い自撮りをしている。場所は変わり大学の研究室。准教授の前地弥太郎(今津知也)が妻の悠子の自撮り映像を観ていると、登山家の屑木和伸(松竹亭ごみ箱)に平謝りされる。悠子は屑木と一緒にネパールのK2に挑み命を落としていた。悠子の死には不審な点が多くやがて彼女を取り巻く人々が登山隊を組みK2へと挑み、厳しい環境に直面しながら悠子の足跡をたどっていく。

     K2とはインド・中国・パキスタンに横たわるカラコルム山脈に位置する標高8,611メートルの高峰で、その遭難率の高さから「非情の山」と恐れられているそうだ(公演パンフレットより)。これまで登山に親しみがあったわけではない作・演出のニキノコスターはさまざまな資料にあたり本作を書き上げたという。私は登山に明るいわけではないが、登山道具や大学登山部の練習風景、入山前の健康診断の様子など細かなところまでよく取材したものだと感心した。本作の主軸は「非情の山」に挑む人々とその過程になるわけだが、それ以外の場面にもきちんと気配りしている点がいい。

     登山者を演じた俳優たちは険しい山道を進む姿を手足を大きく動かして表現していていかにもそれらしい。なかでも撮影をしている田部敦子を演じた大脇ぱんだが緩急自在で面白い。

     反面、人間関係が込み入っており時間や場所が頻繁に移動するため、物語の筋の把握には一定の困難がつきまとった。登山シーンが本作の白眉であるからには、もう少し焦点を絞ってもよかったのではないだろうか。くわえて説明的な台詞やBGMが土臭くエネルギッシュな身体表現・照明変化とミスマッチを起こしているようにも感じた。

     悠子が「非情の山」に挑んだ理由から女性登山家について問うという作者の企みは中途半端になってしまったという感は拭い難い。しかし悠子を演じた宮田頌子の芝居は印象に残る。登山中でテンションが上っているとはいえ感情過多で、なんらか事件を引き起こすような危うさをうちに秘めているかのような熱演を見せてくれた。今際の際で幻覚に取り憑かれる狂気じみた表情、妹の凛(暁月セリナ)の幻影とあやとりをする姿は忘れがたい。

     なお、上演と直接は関係ないが、この劇団の感染症対策が他と一線を画す入念さであった点を記しておきたい。

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    2020/03/25 22:29

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