肩に隠るる小さき君は 公演情報 椿組「肩に隠るる小さき君は」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    昭和初期、庶民の坦々とした暮らし、その背後に軍靴の音が大きくなってくる不穏な様子が観えてくる。不用意な行動が軍事的に利用され、何気ない言葉が人を傷つける、そんな日常に潜む怖さ、悪意を描く。ちょっとした事が高じて不寛容で不自由な世の中へ変貌してしまう。そんな社会的な状況や情勢の変化を、ある家族とそこに集う人たちの交流を通して浮き彫りにする警鐘劇のようだ。ありふれた日常なのに、しっかり劇中に引き込ませる好公演。

    タイトルや説明文から四角四面の重厚作品の印象であったが、登場する人物は、少しお茶目でユーモアがあり、他方、意地悪で小言もいう。その人間らしさが身近に感じられる。物語はある家の一室という狭い空間であるが、描いているのは きな臭くなってきた当時の日本。もしかしたら現代にも通じる状況かも…。情景は情緒あふれる観せ方であるが、そこに軍服姿の軍人が登場し「平和」と「戦争」という対極が演出されているとも思える。また人の優しさ、温かさといった滋味溢れる生活感と大きな時代のうねりに翻弄される前夜、その「個人」と「社会」という異なる視点からの描きも上手い。
    (上演時間2時間)

    ネタバレBOX

    舞台は久田家の居間。この家は舞踊家であるため、上手側に舞台の中に稽古舞台を設える。もちろん集団での舞いや1人で稽古舞いをするシーンがある。そして正面奥は庭に面したガラス戸で、外の景色が眺められる。時は昭和9年2月、外は雪が降っている。

    物語はこの久田家の孫娘が出産する時から、昭和11年2月の2.26事件前夜までが描かれる。タイトルにある「小さき君は」は、もちろん生まれた子-花子と命名-も指すが、親からみれば、成人した子供も指す。生まれた子も含め、四世代が一つ屋根の下で暮らす。そこには人々の脈々とした”生”が描かれている。

    さて、本作は戦争に向かって転げ落ちるような状況下、その時代における市井の人々を淡々と描くことで異常「戦争」と平時「平和」の対比が鮮明になる。久田家の視点を通して事件に至るまでの2年間を描く。普通の家庭である久田家にも軍国化の足音が響き、自由に物が言えなくなる空気が漂ってくる。その不穏な様子がしっかり伝わる舞台。軍国を際立たせる事件として2.26事件が描かれるが、それは直截的ではなく、普段の生活の傍で着々と進んでいる恐ろしさ。その伏線のはり方も日常生活に紛れ込ませ、気が付いたら軍事に巻き込まれている、その巧みな展開に驚かされる。

    例えば、比喩的な描きを意識したと思えるシーン。劇中劇として日舞の『八百屋お七』が出てくる。恋のために放火をしたお七と正義のために事件を起こした陸軍将校、その盲目的な姿が重なる。その行為の行きつく先は破滅。知らず知らず、日常に潜む国家による狂気…そのことを何気に描いた秀作。
    次回公演を楽しみにしております。

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    2020/02/28 18:26

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