満足度★★★★★
昭和初期、庶民の坦々とした暮らし、その背後に軍靴の音が大きくなってくる不穏な様子が観えてくる。不用意な行動が軍事的に利用され、何気ない言葉が人を傷つける、そんな日常に潜む怖さ、悪意を描く。ちょっとした事が高じて不寛容で不自由な世の中へ変貌してしまう。そんな社会的な状況や情勢の変化を、ある家族とそこに集う人たちの交流を通して浮き彫りにする警鐘劇のようだ。ありふれた日常なのに、しっかり劇中に引き込ませる好公演。
タイトルや説明文から四角四面の重厚作品の印象であったが、登場する人物は、少しお茶目でユーモアがあり、他方、意地悪で小言もいう。その人間らしさが身近に感じられる。物語はある家の一室という狭い空間であるが、描いているのは きな臭くなってきた当時の日本。もしかしたら現代にも通じる状況かも…。情景は情緒あふれる観せ方であるが、そこに軍服姿の軍人が登場し「平和」と「戦争」という対極が演出されているとも思える。また人の優しさ、温かさといった滋味溢れる生活感と大きな時代のうねりに翻弄される前夜、その「個人」と「社会」という異なる視点からの描きも上手い。
(上演時間2時間)