まほろばの景 2020【三重公演中止】 公演情報 烏丸ストロークロック「まほろばの景 2020【三重公演中止】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    鑑賞日2020/02/19 (水)

    「『心の揺れ』を追体験する」

    ネタバレBOX

    「夢みたいなんです」

     主人公・福村洋輔(小濱昭博)は2011年3月に発生した東日本大震災が起きたあとのことを問われ、自身の感慨をこのように述べる。震災による津波で仙台の実家を失った洋輔は、日本各地の災害ボランティアに従事する生活を送っていた。大阪の知的障がい者施設で働いていたときに出会った利用者の盛山和義(澤雅展)と心を通わせるものの、ある日和義が失踪してしまう。和義の行方を追って山に入った洋輔は登山者たちに和義の行方を尋ねて回る。その過程で洋輔のこれまでの来し方が舞台上につまびらかになっていく。神楽を教えてくれた父(小菅紘史)との思い出、震災発生後に困っていた不倫相手のナナエ(あべゆう)に風呂を提供した日のこと、定職に就かない洋輔を心配する幼馴染セージ(澤雅展)に説教されたときのこと、自分に好意を示してくれている和義の姉橙子(阪本麻紀)への想いーー過去に起きた忘れられない出来事と和義を捜索する過程が交互に描かれ、震災が一人の青年にもたらした心の揺れに私たち観客は誘われていく。

     和義を捜索する過程で洋輔が出会う登山者たちは、洋輔が過去に関わった人物たちをかわるがわる演じていく。私がまず感心したのは登山者を演じる俳優たちの変身の鮮やかさである。セリフを方言に変えたりバスタオルを羽織るなどするだけなのに、照明と音響の変化も相まって一瞬にしてまるで違う人格に変わる。しかも主人公の洋輔を演じる小濱以外の俳優は何役も兼ねる。作・演出の柳沼昭徳の要求に応えた俳優たちのウデに目を見張った。無論共演者たちの変身に応え、現在の時点から瞬時に過去の洋輔自身を演じ分ける小濱の柔軟さがあってこそ成立している演出と感じた。

     音楽の使い方もうまい。もうひとりの出演者というべき中川裕貴は、チェロの独奏で重要な部分を担っていた。特に終盤、洋輔の魂の咆哮を代弁するかのような激しい調べが今でも耳に残っている。また出演者たちは自分の出番を終えると舞台袖でマイクを通して神楽の祭文を吟じ鐘や太鼓を奏でやがて舞台上で舞う。俳優たちの神楽はダイナミックで、ここだけをずっと見ていたいという思いにも駆られた。

     本作はトラウマティックな体験をした青年の物語であるからテーマは重い。主人公の悲しみや迷いは観客の心にうず高く積み重なる。その堆積の過程を重荷に感じ見続けることがややしんどくなってしまったという感は否めない。たとえば洋輔とセージが話し込んでいる傍らでブツブツ独り言を繰り返す女装のオッサン(小菅紘史)の様子や、橙子がパソコンで内職をしながら臀部を掻き、その様子を洋輔に見られて思わず恥じらうところなど、クスリと笑ってしまう要素をもう少し付け加えて緊張を解いてほしいと感じた。無論ただメリハリがほしかったというわけではない。些細でくだらないおかしみとともに思い返す出来事は登場人物の陰影をより深めるし、神楽に象徴される洋輔の「復興」「再生」「鎮魂」という願いがより前向きなものになるのではないかと感じたのだ。

     果たして洋輔の抱えた問題は解決されないまま幕は降りる。ここは賛否が分かれるところだが、主人公の迷いや葛藤を追体験してきた身としては、せめて「見通し」だけでもいいので何らか方向性を提示してほしかった。

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    2020/02/24 15:43

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