おんにょろ盛衰記 公演情報 糸あやつり人形「一糸座」「おんにょろ盛衰記」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    演出家としての名前はよく聞いていた川口氏の本格舞台を初めて鑑賞。上手花道に謡い方と太棹の弾き手が二名ずつ、下手側には敷物の上に太鼓と鳴り物の演奏者。おんにょろ役に元唐組俳優丸山厚人、他は黒衣裳で人形を操る。途中、京劇あり、大蛇のうねりの舞いあり。伊藤雅子の装置の特筆は舞台下手上方に吊られた、うねる曲線で切り取られた大きな板。背後の黒にくっきり浮かんでいる。照明の当りで見え方が変わるが、後半、村人が喋くる場面でふと、板の輪郭が裏返し、周囲の黒部分が山、境界が稜線に見えた。
    「おんにょろ」は以前戯曲を読んだが舞台は初めて。糸操り人形劇である事、語りや音曲の使用により、民話的世界がうまく舞台化されていた。

    ネタバレBOX

    追記するのは「作品」と「演出」について。以前戯曲で読んだ時、木下順二のうまい筆運びは終盤に「劇的」な瞬間を作ってはいる、だが「そうならない展開」もあり得る所を敢えてそう運ばせた意図は抽象的な思考に属し、民話風を装っているがどうも知識人的であると感じた。その事を芝居を観ながら思い出した。
    おんにょろという馬鹿力を持つ無法者は、村人にとっては他の厄介者、「虎狼」と大蛇と並ぶ三大災難なのだが、おんにょろは村人におだてられて虎狼、そして大蛇を倒す。大蛇の時は、村人がうっかり口を滑らせた「もう一つの厄介者」の事を教えろと迫り、乱暴をするが、虎狼を倒して来たばかりで疲労のさなかにあるおんにょろの闘争心を村人らは炊きつけ、大蛇退治に出掛けさせる。大蛇退治の様子を見ていた村人らは、おんにょろが大蛇の体に摑まって湖の中に入って3日も出てこない事を確認し、おんにょろと大蛇が相打ちして双方とも果てたと判定、村に帰って祝いの儀を行うこととする。だがおんにょろは大蛇を倒し、草っぱらに放り出されてそこで2日間昏々と眠っていただけであり、村人が宴を催そうとしている時にやって来る。その前に湖に貼り付いていた村人らが一計を案じて、村で待っている者たちに「おんにょろが来たぞ」と触れてひと泡吹かせ、その後朗報を聴かせて安堵させてやるというドッキリを計画。
    「劇的」はこれに続く展開で、「おんにょろが来たぞ~」が嘘と真の両面持ち得る事の劇的がある。そこから本丸の劇的へ。おんにょろが「もう一つの厄介者は誰だ!?」(それが人間である事を前のやり取りで聞いている)と迫ると、先程から肝を冷やしながらおんにょろと話をしていた長老が、ついに「それはおんにょろの事だ」とやけくそに告げてしまう。おんにょろは立ち尽くす、というラストだ。
    虎狼も大蛇も、おんにょろも人間とは言え、架空の世界(フィクション)の住人である。そしてこのドラマは、村人たちと、おんにょろの二者の関係の物語で、村人の方はどこまでも平坦な現実そのもので、変数はおんにょろ、これが何を象徴するのかを劇の進行で見極めようとして行くことになる。
    村に貢献したと思っていた自分が、退治されるべき厄介者とされていた、という逆転は、即ちおんにょろの側に身を置いた、「一人称おんにょろ」としての「劇的」瞬間である。従って観客はこのラストを、おんにょろに肩入れして眺める事になるのだが、そうする事によって何を読み取るかを考えるに、「善意」が(自業自得であるにせよ)「受け止められなかった」という哀しみであり、それを導き出している己自身と、人はつき合っていかねばならない・・・といったところ。
    ところが彼は「善意」でそれを行ったのか、そもそも「善意」とは何か、と問えば、虎狼を退治すれば称賛される、自分のグレードの高さを誇示できる、それによって己の欲求をより遂げやすくなる、つまり彼は「権力」を欲しがった、とも解釈可能。ただし「承認欲求」は誰しもあるもので人間的そのもの、単に彼はそれを表わす方法を「知らなかった」だけなのだ、と診てみる。あるいは文化的な違いが解釈の違いを生み、差別の対象になったとも。「おんにょろ」を、例えば日本列島に勢力を形成していたアイヌ民族の末裔が(カムイ伝みたく)狼に育てられ、山に住むようになった・・そんな話を重ねてみる。それでもやはり無理がある。「象徴」としてのおんにょろは、しかし現実の表象である村人らには現実的な被害を与えていた事を戯曲は描いているので。
    そんな訳で、最後に取って付けた劇的ラストを据えたこの作品だが日本演劇の古典の部類のようで。

    演出について。作品の「欠陥」が、義太夫語りや京劇を入れ、また糸操り人形劇である事により乗り越られていたが、丸山厚人という特権的肉体はおんにょろという役にとってはどうだったか・・面白い試みではあったが「どこか抜けている」感のあるのがこの戯曲には助けになる所、鋭さを持ったやり手二枚目のキャラでは中々難しかったのではないか。休憩前のステージ側照明を落とさない演出、ラストの作りはもう少しサッパリした切れ味が欲しかった。

    0

    2020/02/09 04:51

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大