からゆきさん 公演情報 劇団青年座「からゆきさん」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    明治時代のシンガポールの日本人娼館の物語。女主人のお紋(安藤瞳)がきりっと美しい。女たちの中で稼ぎ頭のミユキ(佐野美幸)は、社会主義者崩れの元学生・七之助(石母田史朗)に思いを寄せる。その恋情が切なく、彼が日露戦争で不具になって帰ってきても支え続ける姿が哀れである。

    新劇の代表作らしく、ねりあげられた台詞の美しい芝居である。ミユキと七之助の丘の上の逢瀬の場面など特に美しい。ミユキ「あなたがいて私がいて、日は暖かいのに、あなたは戦争へ行くのね。世間には体は売らないが、心を売っている奴がごまんといる。私たちの仕事はそれより美しか仕事たい」七之助「ロシアは打たなければなりません。理屈です。でも理屈で生きてきましたし、男ですから多少の意地ってものがあります」

    女たちが身を売る背景にある農漁村の貧困と、戦争と、彼女たちを最後は安住の地から追い出す国家の横暴。批判するものが明確だった時代はいいとも思った。そういう意味でも戦後新劇の代表作である。

    女衒の多賀次郎は意外と影が薄い。様々な過去を持った女たちの群像劇である。その一人ひとりの出自と個性が戯曲でも演技でも、説明的でなくきちっと描き分け、演じ分けられている。お紋、ミユキの出自ははっきりしないなど、無理に埋めない隙間もあって、そこがいい。女たちに最後は捨てられる多賀次郎は無様で滑稽。そこに女たちが「捨てられたふりして、逆に捨ててやった」国家も重ねられている。

    切なく美しい群像劇を、常に背景に広がる海が見守っている。冒頭の天草からシンガポールまでつながるその海は、「海、美しいのね」という最初のセリフとは裏腹にどんよりと灰色で、時代の暗い荒波を象徴しているようだ。
    2時間20分(休憩15分込み)。私の見たときはアフタートークがあり、演出の伊藤大氏が出て、毎日新聞の濱田元子氏の司会であった。

    ネタバレBOX

    和服芝居というものを考えた。和服は、お紋の着る上品な服から、商売の時に女が着る赤が基調のはだけた服、同じ娼婦でも普段着は青や渋めなどまた違う。下働きの女たちのくすんだ茶色の地味でくすんだ服など、服で女の立場・地位・状況がわかる。これは発見だった。女優陣は頻繁に着替えるのは結構大変だったろう。

    0

    2020/01/28 07:22

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大