『どんとゆけ』 公演情報 渡辺源四郎商店「『どんとゆけ』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    手錠で腰縄で茶の間に連れてこられた若い死刑囚に、目のギラギラした美人が「似合ってる!」と嬉しそうにいう。そんなブラックユーモアからはじまって、死刑員制度で被害者の老父と若い妻と、見守りの刑務官が死刑執行までの1時間を、一緒に過ごす。かつて死刑を執行していた刑務官の、死刑執行の、踏み板の開いて、落ちる音が耳をついて離れない、のセリフが良かった。

    被告と文通し獄中結婚したという女性(最初から出た美人)がいることで、演劇になったと言える。出ないと、死刑囚と被害者家族のぶつかり合いだけになる。刑務官がいるだけでは、この単純な構図は破れないが、この変な女性の存在で、人物たちの関係が複線的立体的になり、バランスも取れる。

    俳優はみな好演。死刑囚の嗚咽や、腰の立たないほどの恐怖などなど、言葉にならない感情をみなぎらせて、特に良かった。
    80分休憩なし。2008年初演の三演目だという。

    ネタバレBOX

    最後、どう終わらせるのか。第一は死刑を行うのか、やめるのか、あるいはなんらかのジャマが入って延期とか取りやめとか。遺族が温情を発揮するという結末は甘すぎるから、執行してその後の後悔や苦さを強調するかと予測した。しかし見事に裏切られた。

    執行間際に、遺族の妻の新しい恋人(店長)が飛び込んできて、この人物が新しい見方を提示する。やはり、変化は新人物の登場によって起きるとは、演劇的セオリーの一つ。
    「悪いのはあの人、人殺しとは結婚できないって」という妻のセリフで、舞台に新しい奥行きが生まれ、犯人だけでなく、死刑もまた人殺しという死刑批判が提示される。
    それまで、妻が犯人に向かって「こんなの人間じゃない。ただの人殺しよ」など人殺し呼ばわりを何度もしていたので、ラストの台詞で大きなアイロニーがうまれる。

    また、この家で既に二人死刑執行されたというのも、今回の執行を相対化するとともに、変な広がり、死刑フェチとも言える女性の不気味さがうまれて、残酷さを緩和する。

    0

    2020/01/26 11:38

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大