満足度★★★★
自分が「東京ノート」を知らなかった事に観ていて気づいた。以前観たのは矢内原美邦による舞台で個々の台詞も粗筋もよく分からないバージョン(「東京ノート」を知る人が演出を楽しむ作品)が唯一だったようで。
非常に繊細な、演出の志向がよく伝わって来る舞台。作品は75分という時間が示すように(タイトル表記も変えてある)原作の「物語」を辿るというより、場面や台詞をコラージュし絵画的に提示したものと思われた(粗筋を知らないのでそう見えただけかも?)。
闇に親しみ静寂が際立つ演出で、主人公に据えているらしい坊薗女史の(悲劇の裏返しのような)晴れがましい笑みを湛えた様子と、その他の人間たちとの質的な差が、一方を死者もしくは生者と見せたり、その逆に見えたり、場面が原作モチーフである絵画に見えたり、ミザンスと照明に非常にこだわった演出である。特徴的な演出だが、それが技巧としてでなく情感そのものとして(粗筋は判らなくとも)じんわり伝えてくるのが心地よく、作り手へのある種の信頼を獲得していたと思う。今後が楽しみ。