埋める日 公演情報 スポンジ「埋める日」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    葬儀を通して しっとり と 時に激しくぶつかり合う3姉妹の物語。葬儀という非日常に日常の生活が見え隠れし、その間にある感情や思い出を埋めていくような珠玉作。
    特に舞台セットの緻密さと3姉妹を演じた女優陣が良かった。リアルに研ぎ澄まされた台詞が呟かれたと思えば緩い笑いを挿入する、その硬軟織り交ぜた紡ぎ方は作・演出の中村匡克氏の手腕。
    (上演時間1時間20分)

    ネタバレBOX

    葬儀当日という設定であり、劇場に入ると読経音が聞こえ、前説は会葬者への挨拶風に行うという念の入れようだ。当日パンフによれば、千葉県松戸市にある常盤平団地が舞台で、ここに3姉妹の母親が住んでいたようだ。セットは上手側に応接セット、TV、ドレッサー等がある。中央はダイニングキッチンで、奥に台所、給湯器、冷蔵庫、客席側にダイニングテーブル、椅子が置かれている。下手側はベランダに出る窓や食器棚がある。奥の壁は暗幕で、そこに鮮やかな赤いカーネーションが飾られ、一方、柱やテーブルなど至るところに枯れ蔦のようなものが巻き付く。その外観は独居老人の楽しみと悲しみが同居しているようだ。

    物語は葬儀場からこの部屋に帰ってきたところから始まる。3姉妹のはずが、長女と二女だけで三女の姿がない。実は団地自治会から頂いた香典を拝借して北海道まで喪服を買いに出かけ、そのままクラブで踊り続けたという。何故か関係ないお供の男2人がついてきた。一方、長女は喪主であるにも関わらず、この時も仕事が頭から離れない。そして唯一結婚して母親の介護を続けたのが二女である。一見 常識/真面目人間のように描いているが、実はストレスから不倫していたことが発覚。この3者3様の暮らしぶりは日常のこと。そして葬儀という非日常(生業としている人は別)の場面において、色々なものを”埋める”作業を行っているようだ。

    例えば、介護で鬱積した感情を露にする二女、自由奔放に生きるが何となく空虚な三女、結婚に興味無いと嘯(うそぶ)く長女など、充たされない思いを3人の会話で埋めているようだ。また母を偲ぶことで久しぶりに思い出に浸る_空白の時を埋める弾むような会話。母の知られざる趣味-デザイン絵を描くこと、カーネーションが好きだったこと等が、脇役の人々との弔問、交流を通して知ったり思い出したりする。3姉妹を巡り、葬儀社の社員、ヤク中毒男、横領男、二女の不倫相手の妻、姉妹の叔父さんなど個性豊かな人々が脇を固める。

    団地という設定は、少子高齢化の象徴のようにも思える。マスコミでも取り上げられるが、独居老人の孤独死。そして少子は団地近くの小学校が廃校になり取り壊されること。その工事/騒音によって状況が連想できる。
    団地の部屋という限定空間で、非日常と日常が互いに上手く溶け込む。丁寧に作り込んだ舞台セットは視覚的な仕掛けとして見事なまでにリアルな感覚を持たせる。それが物語の展開とマッチしているが、ラストは観客に日常に戻ったという印象(衣装も喪服から普段着へ)を持たせたかったのだろうか? 葬儀から1カ月以上、何となく物語を手放したという唐突感がぬぐえないのだが…。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2019/12/23 22:34

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