時代絵巻AsH 其ノ拾伍 『赤心〜せきしん〜』 公演情報 時代絵巻 AsH「時代絵巻AsH 其ノ拾伍 『赤心〜せきしん〜』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    武田義信が父 信玄に最初で最後にねだった事...そのシーンが冒頭とラストの悲哀場面として回帰する。この公演は近作の源平合戦や前作の関ケ原の戦いのように明確に敵方がいるわけではなく、戦国時代、武田家という武門の宿命を描いた物語。描き方は、乱世の時代とは思えないほどの情感に溢れ、観ている人の感情を激しく揺さぶる。
    この劇が素晴らしいがゆえに困ったことがあった。それは両隣にいた女性観客が感極まって中盤以降ハンカチが手放せないほど泣き続け、自分の感情移入より先々に行ってしまう。繊細な感情表現、場面こそ少ないが殺陣、その観(魅)せる物語は感涙も頷ける。
    (上演時間1時間50分)

    ネタバレBOX

    舞台セットは時代絵巻 AsHの定番、正面に少し高さを設け襖障子と廊下、客席との間は中庭のような空間を作り殺陣シーンのためのスペースを確保する。下手側には土庭があり、チラシ絵柄にある白ユリを終演後、暗転から明転(挨拶)するまでの間に咲かせる細やかさ。この白ユリは父 信玄と子 義信の情を繋ぐ象徴のようなもの。

    物語は義信誕生から自害までを時代の出来事(合戦など)を通じて順々と展開する。史実のような事実は描かれるが、必ずしも事実が真実とは限らない。その曖昧さにフィクションを持ち込み戦国時代ならではの権謀術数が怪しく描かれる。直接的な合戦シーンは1回(川中島合戦)、時代劇としての殺陣シーンが2回(武田家内の実戦訓練と先の川中島合戦)というのは物足りない。

    一方、織田方の3人(徳川、明智、羽柴)の天下統一に関する各自の思惑を通して、(戦国)時代の情勢などを分かり易く説明している。武田家と織田家中の場面を切り分けながら展開することによって、義信という人物よりも「武田家」という”家制度”のようなものが観えてくる。それはたとえ嫡嗣であっても武田家存続のためには犠牲になるという、今でいう不条理が垣間見える。

    史実では義信が謀反を企てとあるが、劇では織田家中の場面を通して武田家内紛を画策し、聡明な義信がそれを察し、自ら謀反者になるという設定。展開もスムーズで、山本勘助自害→真田家台頭→「草」登場。身分賤しき「草」と呼ばれる者を使って謀反を流布したのも本人である。「草」のこの任の重要性を見通した慧眼、それゆえ「忍び」の者という呼称、この先の世でいかに重要になるか、その任務のやり甲斐を持たせる心くばりも心情豊かに描く。また父 信玄も義信の心中は察しているが、武田家の当主として苦渋の中にいる。全体的に戦国という乱世にも関わらず、心情ある描き方をしている。

    公演は、義信という不運の武将を情感豊かに描きつつも、全体としては戦国という時代絵巻を観せているような印象を持った。ここに史実とは異なる物語性を起こし、さらに主人公が自ら犠牲になることで観客の同情、義憤を掴むという、劇的には巧みな描き方をしている。先に記した殺陣シーンの物足りなさは、時代のうねり、義信の人間的魅力という社会・個人の両面をバランス良く描くことによって余りあるものにしている。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2019/12/15 23:28

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