五稜郭残党伝 公演情報 温泉ドラゴン「五稜郭残党伝」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2019/12/15 (日) 13:00

    スピーディーな場転でテンポよく進み、歴史と仕組みを上手く説明してくれる。
    主人公と一緒にそれを理解することで、彼の“逃げる目的”の変化に気づく。
    逃げる側のキャラが最高に魅力的で、一緒に逃げているような一体感の中で観た。
    追う側の人物像も立体的なのでストーリーの厚みが増す。
    この国はいつもこうして失敗してきたのだ。
    “ざんねんな”国の理不尽さに血が煮えたぎった2時間5分。

    ネタバレBOX

    戊辰戦争の終末期、「箱館戦争」の後日談だとういうこの作品は、
    降伏が決まった直後に五稜郭から逃げた“脱藩者”二人の逃走劇である。
    冒頭、二人が脱藩を決意して一緒に逃げようと決めるまでが簡潔で見事。
    一気に惹き込まれて、後は行く先々で助け助けられ、いくつもの出会いに
    観る側も転がるように巻き込まれていく。

    二人が出会うのは皆「生きる場所が無い」隠れるように暮らす人々だ。
    生きる場所を失った者同士、共感して行動を共にし、命を懸ける。
    アイヌの人々、隠れキリシタン、混血・・・、皆繋がり、信頼し、危険を冒す。
    次々と命を落としていく人々の無念を思い、脱藩はやがて新しい夢へと方向を変える。

    一方追う側は「生きる場所」こそあるものの、それにしがみつき、もがいている。
    「その先に何があるんでしょうね」という荒巻(佐藤銀平)の台詞に象徴される、
    目的を見い出せないまま走り続ける疲労感がひしひしと伝わって来る。
    目的の無さを振り払うように、がむしゃらに追い続ける彼らもまた痛々しい。

    追いつめられながらも前向きで、強く真っ直ぐな蘓武源次郎(いわいのふ健)が素晴らしい。
    次第に夢のような構想をいだき、しかし現実には遺書を残す冴えた頭脳を持つ男。
    蘓武を信じて共に脱藩する銃の名手・名木野勇作(五十嵐明)、
    二人と行動を共にするアイヌのシルンケ(筑波竜一)、
    彼らを狂ったように追い続ける隅蔵兵馬(阪本篤)のキャラが秀逸。

    「お前は逃げろ、クナシリで会おう」と言われながら、
    やはり戻って源次郎の最期を見届けるヤエコエリカ(サヘル・ローズ)が
    ラストシーンに相応しい力強さを見せて思わず涙があふれた。
    源次郎の遺書を見つけ大音声で読み上げる。
    この無念と希望こそが、作品を貫く大動脈であると思う。

    こんなに悲劇的な結末を、終わってみれば“冒険活劇”に仕立てたのは
    原作者・佐々木譲氏と脚本・演出のシライケイタ氏の力に他ならない。
    まさに、“創り手の矜持”だと感じた。



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    2019/12/15 22:51

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