だからどうした 公演情報 HYP39LOVE「だからどうした」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2019/11/17 (日) 15:00

    大人になり切れない男の魂の叫び。
    恋愛にとどまらない、人間のありようを描いた一大エンターテイメント。
    以下、ネタバレBOXにて。

    ネタバレBOX

    11/17の15:00開演。高円寺チームの千秋楽。
    開場は14時15分。
    劇場に到着したのはそのさらに5分ほど前だったが、既に数人の
    列が出来ていて驚く。

    受付の様子を眺めていると、リピーターの方が多い印象。
    何となく小劇場の演劇って、一人で観に来る方が多い気がしているんだけど、
    友達やら仲間やら恋人やらと連れ立って来ている方が、それなりに多かった。
    そして、年齢層が比較的若いなとも思った。

    スタッフの方や、主宰の表情豊さんが、適度な感じで場を盛り上げる感じで、
    開演前から劇場内の空気はすでに温まっていた。
    この時点で、本編への期待値もグンと上がってくる。

    見事に期待を裏切らない作品だった。
    全体的にコメディ調で進む本作だが、そのテンポや笑いの組み立て方が、
    私にはぴったりハマって、気持ちが良かった。

    しかしながら、本編で語られる男女を取り巻く事情や情事は、正直、笑えない
    ぐらいリアルで所々で胸を抉られるシーンも。

    何しろこの物語は容赦がない。
    この手の入り組んだ恋愛事情は、高円寺界隈のみならず、古今東西どこにでも
    転がっている話だ。
    そこに特段の目新しさはない。

    事実は小説より奇なり、の言葉通り、ここで語られる物語よりも、さらにハードな
    恋愛事情など、日常には掃いて捨てるほどあるだろう。

    フィクションという形にそれを落とし込むとき、少なからずオブラートに包んだり、
    あるいは逆に誇張したりすることで、結果として「フィクション臭さ」が出てしまう
    ものだけれど、本作について言えば、そういうものを感じなかった。

    小説が事実と肩を並べてしまった。
    フィクションにしてフィクションにあらず。
    その生々しさに気持ちを(良い意味で)蹂躙されたような気がする。

    だからこそ、この作品は私はもちろん、会場にいた観客の皆様にも大きな衝撃を与え、
    結果として、あのダブルコールに繋がったのではないか。

    ダブルコールなるものが、世の中に存在することは知っていたが、目の当たりにしたのは
    初めて。

    え?なに?ほんとに?いいの?え?出るの?え??
    みたいな表情を浮かべながら、再び舞台に戻ってくる役者の皆様。
    着替えの途中だったのか、慌ててまた着なおして戻ってくる方もいた。

    どこに並ぶの?さっきと同じ??え?ねぇ、どうすんの??
    という感じ丸出しで、オロオロ、ワタワタとする皆様。

    私、たぶん、あの場面、もう死ぬまで忘れないと思う。
    役者の皆さんの、ありのままの表情。
    戸惑いつつも、喜んでいただいてけているあの表情。

    勝手な想像だけれども、あの時、役者の皆さんの中に、
    演劇に関わっていて良かった。
    役者でいて良かった。
    そんな思いがあったように感じた。

    もし、それが当たっていたとすれば、観客の側として、これほど幸せなことは無い。
    そういう場に立ち会わせて頂くことが出来たということが、とても嬉しくて、
    幸せだった。

    私がこの公演で感じたのは、劇団の皆様の「楽しんでいってもらおう」という
    強い気持ち。
    一部とはいえ、本編の撮影を許可していたことや、物販、先にも触れた開演前の
    スタッフの方の気遣いなど「居心地の良さ」を感じさせる場面は多々あった。

    観客の皆様も温かい方が多かったような気がする。
    印象的だったのは、開演前に台本完売のアナウンスがあったのだけれど、あそこで
    一部から拍手が上がったのである。

    それを聴いた時に、あぁ、なんて素敵なお客さんなんだろうと思った。
    観客としての精進がまだまだ足りないと感じた瞬間。

    演劇を創る側、受け止める側、双方の高い熱量がまじりあって、稀にみる、素晴らしい
    公演だったと思う。

    これほどまでに、観客に愛された公演を観たのは初めて。
    本当に観劇できてよかった。

    ここからは、それぞれの登場人物を中心に、本編を振り返り。

    カズ(金田侑生さん)

    何というか・・・若いころの自分を見ているようで、微笑ましい思いも、ほろ苦い
    思いもあった。
    嘔吐するまでには至らないにしても、同じ道をたどった私としては、彼の潔癖な
    姿勢と思考はとても共感できたし、納得できた。

    彼が思い描く理想の女性は、あまりにも人間離れしすぎているのだと思う。
    言ってみれば、カズが恋をしているのは「恋愛」そのものであってユミでは
    なかったのかもしれない。

    けれど、作中で色々な経験をする中で、カズはようやく「恋愛」ではなく、
    ユミを好きになることが出来たような気がする。

    演じられた金田さん、「熱演」という言葉がぴったりで素晴らしかった。
    顔を真っ赤にして演じられた嘔吐のシーン。
    ライブシーンでの絶叫交じりの告白。
    ラストシーンでみせた、様々な表情。
    どれをとっても本当に素晴らしかった。
    ダブルカーテンで最後に、何度も何度も観客席に頭を下げていた金田さんの
    姿、本当に印象的だった。

    ユミ(吉田のゆりさん)

    「したいことをしているだけ」
    まさしくその通り。
    潔癖なカズに対して、ユミは奔放ではあるんだけど、彼女の生き方というのは
    ごくごく自然で、結局のところ、生きるということは、そういうものなのだと
    思いながら観ていた。

    ただ、ありのままに生きているユミを絶賛し、美化し続けるカズのことを微笑ましいと
    思う反面、居心地の悪さもあったと思う。
    こうしたミスマッチは、現実の中でも、ちょくちょく見かけるシチュエーションなので、
    非常に生々しく感じた。

    大人として生きているユミに対して、カズはあまりにも幼い。
    典型的にうまくいかない組み合わせだとは思うので、結末は個人的には正直、意外だった。

    カズの真っ直ぐ過ぎる告白を、幼いと感じつつも、その純粋さに胸を打たれたのか、
    あるいは、忘れていた何かを思い出したのか。

    後日談が個人的にはちょっと気になる。
    うまく…いくのかなぁ。
    いや、うまくいっては欲しいんだけど。

    マツ(保さん)

    カズとはちょっと違った意味で幼さを感じるマツ。
    そして同じようにちょっと違った意味で真っ直ぐでもあるんだと思う。

    彼女がいるにもかかわらず、ヨコを抱いてしまった、自己嫌悪。
    自分でも戸惑うその感情をコントロールしきれずに、周りに当たり散らす。
    そんな彼に幼さを感じつつも、彼の愚直さを象徴しているようで、個人的には
    ちょっとした微笑ましさも感じた。
    すごく不器用だな、とも思うけれど。

    結局、彼は、ヨコと付き合うことになった…ということでいいのかな。
    他のカップルには、どこか今後に危うさを感じさせるものがあるんだけど、
    マツとヨコに関しては、安定感抜群な印象。
    末永くお幸せに。
    エリはちょっと、かわいそうだなと思うけれど…

    エリ(長友美聡さん)

    作中に登場する人物の中で、唯一、幸せになれなかった感のあるエリ。
    マツと過ごす時間が少なくなってきたことから、彼の自分に対する気持ちを疑い
    始めてしまったのだけれど、村田が指摘するように、マツがバイトに明け暮れるように
    なったのは、エリのことを思えばこそだったのだと思う。

    これもよくある話だけれど、ちょっとしたボタンの掛け違いが大きな歪に
    なってしまい破局に至ってしまったのかな、と。

    初対面の村田と一夜を過ごしてしまうというくだりも、これまた、よくある話…
    とまでは言わないにしても、それなりに見聞きする話だけれど、それを一夜限りに
    出来なかったのが、エリの純粋さであり、そして、ある意味、幼さであったようにも
    思う。

    エリとユミが作中で絡むシーンはないのだけれど、もしも、エリがユミに恋愛相談の
    様な話を持ち掛けていたら、少し話は違った方向に動いたのかなという気もする。

    エリを演じられた長友さんは『降っただけで雨』以来のお姿拝見。
    ご挨拶はかなわなかったけれど、舞台上で拝見する久々のお姿に心が躍った。
    お元気そうで何より!

    ヨコ(金井愛さん)

    いやー、切ない。
    繋がりが強い近くの自分よりも、繋がりが薄い遠くの相手を選ばれてしまった挙句、
    異性としてすら見てもらえないって、これまた実際によくある話だけど、やっぱり、
    目の当たりにしてしまうと残酷だなって思う。

    個人的には男女の友情はありうると思っている人なので、愛だの恋だので結ばれる
    よりも、本作の冒頭のシーンのように、異性を意識することなく、他愛ない話で
    ゲラゲラと笑いあえる間柄の方がよほど幸せだと思うんだけど、好きになってしまうと、
    なかなか、そうも行かないですよね。
    男と女ってホントめんどくさい。

    異性として考えることができないって、個人的には誉め言葉でもあるって思ってる。
    性別を超越した部分で繋がってるって、個人的には解釈してるんだけど、恋愛感情が
    あるとかないとか以前の問題として、あんまり良い表現ではないのかな…
    ちょっと反省。

    ヨコって確かに男受けは良いと思う。
    でも、エリみたいな嫌悪感を持つ女性も多いのかな。
    見方によっては、媚びてるように映ってしまう部分もあるかもしれないし…
    繰り返しになるけど、男と女って、ホントめんどくさい。

    ヨコを演じられた金井さんは『いつもの致死量』『先天性promise』に続いてのお姿拝見。
    今回もそうだけど、金井さんが演じられる役は、いつもさっぱりした女性で大好き。
    本作のヨコも大好きでした。

    ニーナ(佐倉仁菜さん)

    ひたすら感じ悪い女で終わってしまうんだろうかと思っていたが、ユミとのやりとりで
    ちょっとときめいてしまった。
    すげーツンツンしてるんだけど、意外に同性にはすごく優しかったりって、ちょっと
    グッとくる私。

    でも、別にツンデレが好きなわけではないので、村田の前では甘えた姿を見せるのは、
    おぉ!とは思いつつも、そこは別にときめかなかった(笑)。

    しかし、まさかヨコヤマと一緒になるとは…

    心を動かされたとすれば、あのヨコヤマの魂の告白だろうけれど…

    もしかするとニーナはあんな風に愚直な告白をされたことがなかったのかもしれない。
    美人であるがゆえに、高嶺の花と思われて、告白すらされない。
    告白されても、見ているのは、自分の外面ばかり。

    そんな中で、普段からケチョンケチョンな扱いをされているにもかかわらず、自身への
    愛を語るヨコヤマに、他の男どもとは違った何かを感じたのかな…

    アユ(きみと歩実さん)

    さすがにここまで極端な女性は、なかなかいない気もするけれど、これに近い人は
    身近に居たことがあるので、ちょっと懐かしい思いで見ていた。

    カリンの課金、無課金の例えは、正鵠を得ていて面白い。
    ホント、どうしようもないくらい自分勝手な女だなとは思うんだけれど、カリンと
    一緒にいる時のアユは結構好き。

    男同士もそうだけど、女同士の友情っていうのも良いなって思う。
    アユのカリンへの思いは友情という枠を超えている気もするけれど、見ていて気持ちが
    よかった。

    カリンにキスをするシーンのくだりは、本作屈指の名シーン。
    友達にしたいとは思わないんだけれど、アユはすごくいい子だなと思う。
    だからこそ、カリンも色々と振り回されつつも、アユを見捨てきれないんだろうなぁ。

    いずれは自立を果たすであろうアユ。
    その姿を見てみたい。

    カリン(年代果林さん)

    幼馴染であるアユとの長い長い関係の中で、コンプレックスを抱いた事も少なからず
    あったと思う。

    けれど自身を「課金ユーザー」と称することができている今は、少なくともコンプレックスは
    かなりの部分が解消されている気がする。

    カリンとアユをつなぐものが、幼馴染という関係、そして強い友情なのだろうと思っては
    いる。
    ただ、意地の悪い見方をすれば、重課金を施すことで、今となってはアユよりも自分の方が
    格上と自覚しているであろうカリンは、自堕落なアユといることで、自身の価値というものを
    追認しているのかもしれない…というのは、あまりにも邪な見方だろうか。

    まぁ、もしも、そうであったとしても、カリンの献身には脱帽。
    アユが自立を果たした時、彼女にとって、カリンがどれほど大きな存在だったか、
    改めて気づかされるんだろうな。

    村田さん(村山新さん)

    台本の人物紹介は「スーパーヤリチン」。
    ひどい言われようだなとは思うんだけど、まぁ、嘘ではないから仕方がない。

    彼はある意味、非常に残酷。
    弱っている女性に対して、彼はきっと思っている通りの言葉を投げかける。
    そこに下心はないんだろうと個人的には思っている。

    けれど、結果として、あーなって、そーなって、最終的につけられた称号が
    「スーパーヤリチン」になってしまったんじゃないのかな、と。

    ただ、たぶん彼の中では、夜な夜な女を抱きしめるのは、ユミの表現を借りるのならば、
    弱っている彼女たちに「必要なこと」だからだと思っているのだと思う。

    だから、その関係は一夜限りのものであり、それを恒久的な関係にしようとは思っていない…
    と私は思ってるんだけど、どうなんだろうか。

    思っている通りだとすれば、彼はエリのことをひどく傷つけただろうし、ニーナも
    然りだったかもしれない。

    終盤、カズのライブでの絶叫。
    高円寺という街で情熱的かつ、淡白に生きてきた彼にとっては、わき腹を突かれた
    思いだったのかもしれない。

    遅ればせながらのアオハルを見つけるために、彼は高円寺を去ったように感じた。

    村田を演じる村山さん(ややこしい)。
    『ヘニーデ』以来のお姿拝見だったが、実は観劇当日まで、出演されていることを
    知らず、舞台上の村山さんを見て大喜びしてしまった。
    まさかの再会に、勝手ながら心をときめかせておりました。

    ヨコヤマ(横山大河さん)

    完全にネタキャラかと思いきや、本作の優勝者。
    結構、要所要所で、場面を引き締めにかかってくる。

    ニーナへの魂の告白は圧巻。
    あぁ、若いなぁ純粋だなぁ、と思いつつも、ある意味、カズやマツよりも大人だな
    という気はしている。いや、何となくなんだけど。

    まぁ、でも、あの告白、ニーナはもちろん、ユミにとっても刺さってしまった
    言葉なんじゃないだろうか。

    もしも、あの告白がなかったら、事と次第によっては、カズとユミのあのエンディングは
    訪れなかったんじゃないかという気もする。

    いやー、しかし、まさか、通い詰めていた風俗嬢と結ばれてしまうとはねぇ…
    お二人ともお幸せに!という気持ちはもちろんあるけれど、それよりなにより、
    びっくりした気持ちの方が強い(笑)。

    作・演出 表情豊さん

    表情豊さんの演劇を観劇させて頂いたのは初めてだったけれど、この方は生粋の
    エンターテイナーなんだろうなぁと思った。

    この物語は非常に残酷で、生々しい。
    人間関係の、表と裏、そして、その隙間を、恋愛を題材にしながら、余すところなく、
    そして、容赦なく描いた。

    けれども、それを単なるリアルに終わらせず、ほんの少し、隠し味的な要素を
    注ぐことで、気持ちよく笑える演劇にしてのけたのは、すごいことだなと思う。

    劇団の皆様、役者の皆様。
    素晴らしい公演を本当にありがとうございました。

    0

    2019/11/21 21:40

    1

    0

このページのQRコードです。

拡大