融解 公演情報 白猫屋企画「融解」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2019/11/09 (土) 15:00

    真っ直ぐな、そして歪んだ兄妹の愛の物語。
    以下、ネタバレBOXにて。

    ネタバレBOX

    予想していたよりもはるかに重い作品だった。

    兄妹の愛が一つの柱になっている本作。

    だが、それぞれが、求めている「愛」の形は異なっていたように思える。

    兄はどちらかといえば「親子」のような家族としての愛を。
    妹はどちらかといえば「夫婦」のような家族としての愛を。

    朔はどこか蜜に対してよそよそしいというか、壁を一枚作っているように
    感じた。
    劇中、恋人と電話で話すシーン。
    そこには、一人の男としての朔の人間臭さがあった。
    それに比べると、蜜への態度は何となくよそいきな感じに見えてしまうのである。

    朔は蜜に対して、非常に深い、兄としての愛情を間違いなく持っている。
    両親を失ったのちは、父親としての愛に近い感情も持っていた気がする。

    兄妹とは言え、年は多少離れている。
    そうした部分で、意識はしていないものの、朔は蜜のことを、誤解を招くような
    表現でいえば、対等の相手としては見ていなかったように思える。
    一方の蜜は、兄である朔を一貫して、一人の愛する男としてとらえていたように
    感じた。

    両親を失い、動転した朔は妹との一時を過ごしてしまうが、そのことが
    きっかけで、朔から蜜に対しての愛情は、家族としての純粋さを多少なりとも
    失ったのではないか。

    朔の蜜に対する愛情は、少しずつ融解していき、蜜が望む形へと姿を
    変えてゆく。

    蜜が融解の続編を、窪田家のノンフィクションとして書いた理由は、
    なぜなのだろう。

    本作の冒頭で、執筆中の続編を朔に見られることを頑なに拒むシーンがある。
    仕事に出ていった朔に対して
    「ごめんね」
    と謝る蜜。

    続編を読んで、それが窪田家の物語であると分かりえる可能性のある人物は、
    朔、蜜、そして朔の婚約者。

    蜜の望みは朔と二人で生きてゆくこと。

    その障害になる朔の婚約者に結婚を思いとどまらせるべく書かれたのが融解の
    続編ではなかったか。

    事の真相を知って、朔は蜜を厳しい言葉で断罪する。
    のみならず、彼は授賞式の場ですべてを明かしてしまう。

    朔は蜜の罪をここで清算してやりたかったのかもしれない。

    秘密は秘密にしてこそ意味がある。
    秘密が秘密でなくなれば、それはもう秘密ではない。
    秘密は心の重荷になる。

    人目を忍んで生きていく中で、朔は蜜の重荷を少しでも軽くしてやりたかったの
    かもしれない。

    この後、二人がどうなるのかは分からない。

    けれど、私としては、そこに至るまでの経緯が、非常に繊細かつ重いものであった
    としても、少しずつ異なっていた、それぞれの「二人で生きていくこと」という
    思いが融解し、一つの思いに融合してくれればと思う。

    きっと、その時は、朔は蜜のことを対等な一人の女性として見ているだろうから。

    私にとっては、初めての二人芝居。
    非常に濃密な時間で50分とはとても思えなかった。

    蜜を演じた中野亜美さんは『体温』以来のお姿拝見。
    今回は最後尾の席だったとはいえ『体温』の時よりも距離が近かったので、
    その演技をつぶさに拝見させて頂いたが、表情が素晴らしかった。

    そして手話がすごい!
    私は手話は分からないけれど、自在に手話をこなしておられて、相当、練習され
    たんだろうなぁと思いながら拝見しておりました。

    ご挨拶は叶わなかったけれど、物販を待つ間、見るともなしに、お知り合いの
    方と談笑されている姿を拝見してしまったが、とても柔らかい表情だったのが
    印象的だった。

    終演後のtweetも熱量が高く、こういう方が演者として参加された演劇を拝見
    出来ることは幸せなことだと思った。

    朔を演じられた澤田慎司さん。
    初めてお姿を拝見させて頂きました。
    何といっても、蜜のドレスをかき抱きながら、婚約者と電話するシーンが印象的。
    そして、衝撃の指くわえシーン。
    一連の演技がとにかく圧巻。
    劇場から出る時に、爽やかな笑顔で見送って頂けたのが、印象的でした。

    演出の今村美乃さん。
    開演前まで座席の位置やら何やら、細かいところまでずいぶんと気を配って
    下さっていた。
    スタッフの方に「よしのさーん」って呼ばれているのを聞いて、おぉ!この方が!
    とビックリ。
    おキレイな方で、物販の時も何だかしどろもどろで意味不明な事を話した気がする。
    恥ずかしい…

    それにしても、二人芝居で、あの狭い劇場。
    どんな風に展開されるんだろうと思ったが…素晴らしかった。

    照明の使い方がとにかく素晴らしい。
    圧巻だったのは、やはりあの指のシーン。
    欲情の妄想が、具現化されたような錯覚を想起させる名シーンはあの照明の効果が
    あればこそだったと思う。
    その場が凍り付き、時が止まったようなあの緊張感あふれるシーンは、忘れようにも
    忘れられない。

    音響もまた良かった。
    私が一番感動したのは、ドアの音。
    いや、もうほんとにあの奥にドアがあるんじゃないかと思うような臨場感。
    私、ドアの音が結構好きな人なので、ちょっと興奮してしまった…

    音響と言えば、開演前、終演後に流れてた音楽がすごく良かった。
    あれは、何かの有名な曲なのかな…
    場の雰囲気にもあっていて、素敵な選曲だったと思う。

    台本が売ってなかったので(※のちに通販が決まった。嬉しい!)、パンフレットを
    買って帰ってきたが、これがとても読みごたえがあった。

    実は私は今回の融解が再演だというのを知らなくて、パンフ掲載の座談会の記事で
    初めてそれを知った。

    ちょっと調べてみると、初演はなんと脚本のうえのやまさおりさんと、演出の今村
    美乃さんの二人芝居だったらしい。
    しかも兄妹ではなく姉妹の設定。

    それが時を経て、かつての演者は作る側に回り、新たな演者を迎えて再演なんて、
    何だかすごく熱いエピソードだなと思った。

    色々な思いが詰まった50分の二人芝居。
    その思い、確かに受け止めさせていただきました。
    まだ、全ては受け止め切れていない気がするけれど、それでも十分に濃密でした。

    劇団関係者の皆様、役者の皆様。
    素晴らしい演劇を本当にありがとうございました!

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    2019/11/10 23:06

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