終夜 公演情報 風姿花伝プロデュース「終夜」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    本年白眉の舞台であることは間違いないだろう。
    感想を二つ。まず第一。
    テキストは7時間に及ぶスエーデンの戯曲の由。83年の作品という。北欧は第二次大戦後、大きな戦火から逃れたこともあって、一時期、時代を先取りするところもあった。フリーセックス、家族の崩壊、社会の空洞化、など、いまは一言で語りがちな社会変化の先駆けとして(都市の団地の普及が象徴するように)ようやく家族制度から脱却しつつあったわが国でも注目されていた。それから50年近く。
    今、この延々と続く兄弟夫婦二組の痴話げんかを見ていると、人間は急には変わらないものだなぁと感じる。この芝居の「人間はどのように他者とつながるものか?」という80年代の問題意識は、中吊りになっているようにも見えるが、たぶん、大戦後(あるいは20世紀に入ってから)ずっと男女、家庭、という社会の基礎集団のモラルは中吊りになって行きつ戻りつしてきたのだ。80年代に北欧へ実際に行ってみて、日本の北欧理解は表層的なもので、北欧も、新教基盤の保守的なモラルが強いと感じた。それは日本も含めて世界的に底流でつながっている。
    この種の翻訳劇は、国境を超えると本質が失われたり、時には別種のものになったり(近い例では埼玉の「朝のライラック」)するものだが、この上演は巧妙な編集でこの芝居の本質を伝えてくれた。今春上演された「まさに世界の終わり」もこのカンパニーで見たいと思った。現代のモラルがよく描き切れている「現代劇」だ。
    第二。俳優と演出。舞台は4時間近く、速いテンポのセリフが切れることはない。俳優の動きも、セリフの受け渡しも多い。登場人物は4人だけだが、終始その舞台がアンサンブルとしてサマになっていて、ダレることがない。
    それぞれの人物を舞台の上でひと時だけ今生きている人間として表現した。彼らをほかのメディアでは見たり、説明したりすることはできない。時間をおいてみることもできない。彼らを見る事で、観客はひと時だけ、現代の本質に触れたのである。
    昨晩は台風前夜の雨もよい。終バスを逃したくない観客も多かっただろう。俳優もテンポを上げて、4時間近いタイムテーブルを20分近く巻いた。それでも全く乱れなく幕を下ろしたのはお見事だった。岡本健一や那須佐代子ができるのは知っている。今回は栗田桃子。こんなにうまい人とは知らなかった。斎藤直樹の手堅さも光った。

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    2019/10/12 11:38

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