先天性promise 公演情報 こわっぱちゃん家「先天性promise」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2019/09/22 (日) 13:00

    心優しい人々が織りなす、魂の救済の物語。
    以下、ネタバレBOXにて。

    ネタバレBOX

    こわっぱちゃん家の公演を拝見するのは「いつもの致死量」に続き2度目。
    前作も良かったので、安心して観ることが出来たが、本当に素晴らしかった。

    130分という長めのお芝居にも関わらず、全くそれを感じさせないテンポの良さ。
    今回は前から2列目という恵まれた席で観ることが出来たので、役者の皆様の演技は、
    表情の微妙な変化も含めて、しっかりと拝見。

    あまりにも書きたいことがありすぎて、書いては消して、書いては消しての連続に
    なったが、最後までまとまりそうになかったので、この劇を彩る素晴らしい登場人物と
    気になるセリフを振り返りながら、感想をつらつらと。

    ※台本の人物紹介順に書かせて頂いております。

    中山三次郎(瀧啓祐さん)
    「大丈夫、大丈夫。ちゃんと幸せでいてくれる」
    本編を見たときに、このセリフは正直、あまりピンとこなかったのだけれど、台本を数回読み返し、
    回を重ねれば、重ねるほど、この言葉の重みというか、苦しさを感じた。
    日向に真実を告げないのは、彼の優しさなのだろうけれど、同時に、本当にこれでいいのかという
    迷いも心のどこかにあったのだと思う。
    このセリフには、そんな迷いを払拭したい、あるいは払拭したんだと言い聞かせようとする彼の思いも感じられた。
    三次郎は中盤以降、特に笠原から決断をするように促されるが、同じ立場に立ったとして、そう簡単
    には踏み切れないよなぁ、と思う。
    日向に真美の存在を告げることが出来なかった自身を「最低」と評したが、それはあまりに自責が
    過ぎるだろうと思った。
    三次郎は自分自身の気持ちをむき出しにすることはあまりないが、そういう人間が、感情のままに
    行動するときの、独特の迫力を瀧さんが巧みに演じられていたように思う。
    終盤、水元に「そんなに簡単じゃない」と押し殺しつつも、強い口調で応えるシーンは見ていて
    鳥肌が立った。
    色んな人や思いに背中を押されたとはいえ、最後には真美の存在を明かすことを決断するが、
    彼の決断が、中山家にとって最良の選択であったと思いたい。

    中山日向(岩崎舞さん)
    「いくらなんでも結婚なんてそんな幸せなこと忘れるわけないじゃん」
    最初は正直、痛い彼女なのかと思いながら観ていたが、まさかの設定に絶句。
    単なる記憶障害ならまだしも、結婚したいと思っているのに、結婚している事実を忘れているという
    言葉にすると、あまりにも残酷な境遇で、見せ方によってはいくらでも残酷な見せ方はできると
    思うのだけれど、それを必要最低限のところにとどめて表現するのが、トクダさんの書き方なのかな
    と思った。
    それでもこのセリフは日向にとっても、そして三次郎にとってもあまりにも重たい。
    この言葉を聞いてなお、真美の存在など、明かせるはずもないと個人的には思う。
    笠原の「三次郎が苦しむのと、自分が苦しむのとどちらを選ぶか」と迫られるシーンに即答する日向。
    あのシーンが日向という人の全てなんだろうと思う。
    岩崎さんの非常に緊張感ある演技に圧倒されたが、このセリフのシーンは、なんというか、もう、
    世界が静止したような、そんな独特の感覚が劇場内に走ったように感じた。
    岩崎さん演じる、真美とともに過ごす日向も観てみたいと、書きながらふと思った。

    笠原(鳴海真奈美さん)
    「私は、何をしてあげればいいですかね?」
    笠原は三次郎に対して一切の恋愛感情はないと言い切るが、本当にそうなんだろうかという下衆な
    目線でずっと観ていた(すいません)。
    それ自体は下衆の勘繰りなので、どちらでも良いのだけれど、尊敬する人間に対して、自分自身の
    存在を認めてほしい、あるいは認めさせたいという気持ちはちょっとわかるような気がした。
    笠原にとっては、同期で対等に接し得る佐々木、そして妻である日向の存在は羨望の的であり、
    ごくごくわずかとはいえ嫉妬の思いもあったのではないかと、日向に真実を告げようとするシーンで
    感じた。
    まっすぐでまっすぐでまっすぐな笠原。
    それであるがゆえに、佐々木に対して先のセリフのように、自身のありようをド直球で問いかけ、
    苦しむ三次郎を助けるために、暴挙とも言ってよい行動に走ってしまうのだろうと思った。
    日向を質問責めにするシーンでは、言葉は穏やかだが、そこに多少の毒気を感じてしまったのは
    観ている私の心の汚れゆえだろうか。そもそも「質問責め」というほど責めてもいないし。
    笠原の心中は分からないにせよ、日向と直接話すシーンでの鳴海さんの演技は迫力があった。
    うわー、ちょっと怖いなー、この展開、と思いつつ、もう釘付けになってしまったのは、
    鳴海さん、岩崎さんの演技の引力なのだろうと思う。
    怖かったなー、ここ。

    佐々木(山田梨佳さん)
    「じゃあ、それは自分勝手だね」
    好きなシーンをいくつか挙げろと言われれば、間違いなく、この佐々木と笠原のやりとりのシーンを
    選ぶ。
    どの登場人物も魅力にあふれているけれど、それでも一番好きだなと思うのは佐々木。
    佐々木は大きい。とにかく人間的にものすごく大きいと思う。そして何よりかっこいい。
    後輩である笠原との絡みのシーンが大半を占めるが、佐々木から見れば、笠原の行動というのは、
    ツッコミどころ満載なのだろうと思うけれど、それを頭ごなしに否定するのではなく、全てを
    知ったうえで、ゆっくりと、でもはっきりと笠原に問いかけ、言葉をかける。
    「三次郎が辛いときには目を逸らしてあげて」なんて、笠原でなくたってびっくりする。
    こんな同期か先輩欲しかったなぁ。
    時間が出来たら佐々木語録を作りたい。
    佐々木というキャラに命を吹き込んでくれたのは山田さんだけれど、もうとにかく、素晴らしかった。
    劇中で、対顧客、対同期、対後輩と3つの異なる空気感を演じておられたわけだけど、その演じ分けが
    凄いなと思った。声のトーン、仕草、距離感等々、その微妙な使い分けが、非常にリアルで、
    もう演技なのか、素なのか分からないくらいに素晴らしかった。
    よく通り、凛とした声での語り掛けではあるものの、そこに悪い意味での演技臭さはなく、鮮烈に
    記憶の中に刷り込まれた。
    台本を読んでいるだけでも、このシーンは空気感まではっきりと思い出せる。
    そして泣ける。
    このシーン、本当に大好き。
    佐々木も大好き(しつこい)。
    終演後、山田さんのお姿を見かけて、飛びつくように挨拶をさせて頂いた。
    何だか、頭の中が真っ白で、何を言っていたのかもあんまり覚えていないけれど、お伝えしたかったのは
    こういうことです。
    多少なりとも伝わっていれば、嬉しいなぁ。

    水元(トクダタクマさん)
    「簡単じゃないから、そこに想像力と愛情が必要なんでしょ!」
    立場上、半歩引いたところから議論に参加している感のあった水元。
    彼が唯一、強い口調で迫ったこのシーンが私は大好き。
    この台詞の直前に「三次郎さん、その想像を全くしてない」と言う場面があって、ここを皮切りに
    彼は三次郎に想像の必要性を説いていくのだけれど、少しずつヒートアップしていくあの演技は、
    何度思い返しても、スゴいと思うし、泣けてくる。
    「全く」という部分にアクセントを置いて、まくし立てると言うほどではないが、気持ち早口で畳みかけてくる
    絶妙な加減の台詞回しが素晴らしかった。
    トクダさんの声は、とても優しく、聴き取りやすい。それ故か、彼の言葉は強くとも愛に満ちているような気がする。
    「いつもの致死量」でも感じていたことだけど、トクダさんが書く世界の登場人物は総じて優しい。
    本作は終始、議論がメインで進んでいくので、当然、紛糾する場面も出てくるが、無秩序な紛糾ではなく、
    畑中の言葉を借りるなら「自制された」紛糾で収まる。
    個人的には、紛糾の場面も含めて、全編、どこか自制、あるいは抑制された雰囲気を劇中に感じる。
    それはパワーがない、物足りないと言うことでは全くなく、トクダさんの思い描く「理想のリアル」を追求した
    結果なのではないかと思う。
    瞬間的な爆発力ではなく、じわじわと染み入り、気がつけば、すっかりその色に染まって行くようなところが、
    トクダ作品の醍醐味なのかもしれない。
    実は本編に関しては、個人的には色々と謎というか、掘り下げが足りないように感じられた部分も色々とあったの
    だけれど、終演後、彼自身の口から、ディレクターズカットの存在が語られたので、きっとその辺りで、色々と
    補足されるのかなと思っていた。
    ところが実際にそれを手に取り、読んでみても、本編との差はあまり感じられなかった。
    私の中では、間違いなく自殺志願あたりのエピソードがもう少し盛り込まれるかと思っていたので、ちょっと
    意外だったのだけれど、あえてそういう部分にかなりの含みを持たせるところが、彼自身の狙いなのかなと、
    今では感じ始めている。
    それこそ水元が言うように「想像」するほかないのだけれど、その想像もまた楽しい。
    ぜひともご挨拶申し上げたかったのだけれど、訪れる方がなかなか途切れず断念。
    色々とお伺いしたかったけど、終演後のあの状態じゃ、質問する心の余裕なんてなかっただろうなぁ。

    倉持(金井愛さん)
    「だから私はあいつの嘘に殺されたんだなぁって思って」
    体育会系を地で行くモッチー。
    感情を露わにしやすいが、自身に非があると思えば躊躇うことなく頭を下げる。
    そんなモッチーが大好きなのだけれど、この台詞はあまりにも重かった。
    まっすぐで気も強いが、容姿に関しては少なからずコンプレックスを感じさせるモッチーにとって、初恋の人の嘘、
    それも浮気という最悪な形での嘘は、死を決断させるには十分すぎる要素だったのかもしれない。
    その告白は、抱える重さとは裏腹に、比較的、軽い口調でなされるが、金井さんのその演技が、逆に涙を誘った。
    終盤、琴子と二人で語り合う場面も良かった。
    「ガランとしてて、心の中がスッキリしてて、でもそこにはまだ余熱が残ってて、変な感じ」
    こういう表現は「トクダ節」とも言っていい、非常にきれいな表現の仕方だと思う。
    このセリフを語る金井さんの表情も、とてもスッキリしていて魅力的だった。
    金井さんの笑顔、もうほんとに眩しいんだよなぁ。
    通りすがりレベルで挨拶させて頂いた。ほんとはもっとお話ししたかったけれど、ロビー激混みだったので。
    次回はぜひともご挨拶を。

    吉内はじめ(小川タケルさん)
    「俺ね、たぶん初めて嫉妬してるんですよ」
    何てすばらしい夫婦なんだろう。我が家とは大違い。
    何もかも知り尽くして、愛だの恋だのいう次元をはるかに超えたところにいるという自覚は、
    はじめの中にあったんだと思う。
    だからこそ、自分の知らない良子がいるかもしれないという感覚を「嫉妬」と表現したのだろうし、
    その思いに戸惑いもあれば、悔しさもあったのだと思う。
    でも、それは逆に言えば、吉内夫婦が、もはやすでに極めて強固な夫婦の絆で結ばれていることの
    証だと思うし、この件を機にさらに強い絆で結ばれるであろうことを思えば、世の中にこれほど
    幸せな夫婦もないのではないかと思う。
    この後、夫婦で二人で語るシーン、小川さんのこれまでのコミカルな演技とは打って変わって、
    照れつつも、素直に、まっすぐに伝える演技がとてもかっこよかった。
    酒を取ってこようとする良子を止める演技が、個人的には、非常にツボ。
    良いなぁ、こういう夫婦。見習わないと。

    吉内良子(小山ごろーさん)
    「こいつは根深いですなぁ」
    思わずニヤリとしたこのシーン。
    良子とマモルの絡みがあるシーンは、私は全部お気に入りなのだけど、このシーンが一番大好き。
    あくまでも理想を追い求めるマモルに対して、良子はそれを肯定しつつも、現実を視るように
    諭すのだけれど、マモルとプチトのエピソードを聞き及ぶにつれて、そう簡単にはいかないなと
    感じたところでのこのセリフなのだと思うのだけど、良子がニンマリとしながらこのセリフを
    話すのがとても好き。
    根深いし、手ごわいとは思いつつも、どこかで二人がうまくいくことを確信していたからこその
    このアクションなのではなかったかと個人的には思っている。
    相手に対してのアプローチは違うものの、佐々木に近い立ち位置のキャラだと思っていて、
    要所要所で、見事な調停者ぶりを発揮する。
    モッチーと畑中が一触即発になる場面での、
    「まず、ありがとうじゃないかな?」
    と諭す場面は、すごいなと思った。
    誰のことも悪者にせず、誰のことも不愉快にせずに、その場をまとめ上げる手腕は、自営業に
    より培われたものなのか、それともはじめも知らない過去ゆえなのかは、それこそ「想像」する
    ほかないが、マモルと二人だけの時に見せる少々厳しい表情からは、色々なものを感じてしまう。
    小山さんのその演じ分けは見事で迫力もあったが、現実の厳しさを説きながらも、マモルを説く
    その演技には、慈愛に満ちつつ、押しつけがましくならない、絶妙な加減があって、大好きだった。
    吉内夫婦の店、行ったら楽しいだろうなぁ。

    HAL9000(田中愛美さん)
    「船を補強してなんとか12人乗れるようにできないでしょうか?」
    質問者でさえ想定しなかった全員での脱出を提案し、最終的にチームの答えをそこに持ち込む。
    この発想がハルを象徴して、なおかつ、本作がどこに向かおうとしているかを冒頭にして、
    説明した、とても印象深いシーン。
    ハルという人物は、暗い過去を背負っているうえに、かなりのヲタク気質なため、ちょっと
    色物感があるのだけれど、要所要所で核心を突いてくる。
    振り返ってみると、他の登場人物が一様に、新たな気づきがあるものの、彼女に関しては、
    どちらかというと、気づかせる側に立っている。
    彼女がチームに「選別」された一番の理由は、そこなのかなと思う。
    暗い過去を背負いながらも、見事にそれを克服し、今ではそれを微塵も感じさせない。
    その強固なる精神の持ち主に、チームの影の柱としての役割を期待したのではないか。
    そもそものところ、チームを選別したのは誰なのだろう?
    もしかすると、すでに開発されているAIによる選別なのでは??
    もしかすると、はじめの想像したように、ハル自身が選別したAIなのでは???
    田中さん演じるハルは何というか、そういう解釈にも含みを持たせるような、良い意味での
    淡白さというか、無機質さがあったようにも感じる部分もあるのだけれど、はじめに対して、
    「過去のどこを見たって、そこに未来はない」と語るところは、深い慈愛とつらい過去を
    克服した事で得られた強さを感じさせた。
    やっぱりハル=AI説は却下かな。
    あれはAIには語れないセリフだ。

    横山(川口知夏さん)
    「そのごめんねは誰の心も癒さない自分勝手な気持ちです」
    このセリフを聞いた時に、自分の中で何かが大きな音とともに突き刺さったような気がした。
    そして涙腺崩壊。
    全編通じて、間違いなく、最大の名シーン。
    何かに対してごめんねという思いを抱くことは多々ある。
    そうすることで、何かからの許しを得られると、無意識下で思っているのかもしれない。
    けれど、横山が言うように、それは誰の心も癒さないし、何よりも自分勝手で、自己満足で
    しかない。
    「ごめんねよりもありがとう」
    この言葉は、マリコのみならず、私自身にとっても大きな言葉になった。
    彼女の言葉に重みがあるのは、彼女自身が同じ経験をして、そして、ごめんねから訣別することで
    前向きになることが出来たから。
    経験者の言葉は重い・・・のだが、横山を演じた川口さんは川口さんであって横山ではない。
    川口さん自身、Twitterで話されていたように、各方面から情報を集め、横山という
    役に挑んだのだとは思うが、私の目の前で涙を流し、語り掛ける横山は、架空の人物ではなく、
    間違いなく、リアルに存在する横山であり、川口さんだった。
    私は演劇の素人なので、役者様の演技について、講釈を垂れることなど出来ないが、素人目に
    観て、この場面の川口さん、雅野さんの演技は、もう真に迫っているというレベルを超越
    していたように思う。
    横山の告白のシーンもまた素晴らしかった。
    「私ね、あそっかって思ったんだ」
    表面上はさらりと話す横山に対して、明らかに変調をきたし始めるマリコ。
    その対照的な演出も素晴らしかったが、思い告白をひどく軽い言葉であえて表現した
    脚本に鳥肌が立つ。
    この情景、何というかものすごくリアルだなぁと思った。
    重い告白って、いざ言葉にしてみると、こうしてあえて軽い言葉にしてしまうものだと思う。
    そして、それを見事に舞台上で表現してのけた川口さんの演技がまた素晴らしく、素晴らしいだけに
    胸が痛んだ。
    川口さんにもぜひともご挨拶申し上げたかったが、なかなか来訪の列が途切れず、断念。
    無念の極みではあるけれど、素晴らしい演技を見せて頂いたことにまずは「ありがとう」と
    この場を借りてお伝えしたい。

    マリコ(雅野友里恵さん)
    「できることがね増えるっていうことは、それと同時に出来ないことも増えるんだよ」
    うわー、そう、そうなんだよなぁと思いながら聞かせて頂いた。
    本当にその通りで、マリコと横山というのは、言うなればないものねだりというか、隣の芝生は
    青く見えるというか、そんな関係だったように思う。
    私にとって、雅野さんは本作に登場するすべての役者様の中で、ただ一人、ご挨拶を
    させて頂いたことのある方で、そういう意味では、他の役者様とは、また少し違った
    見方を無意識にしていたように思う。
    私は今年に入ってから観劇を始めた素人中の素人だけれど、回を重ねるごとに、色々な
    ところに少しずつ目が届くようになってきている気がする。
    雅野さんの演技を見ていて、役者が自分とは異なる人物を演じるというのはどういうもの
    なんだろうかということについて考えさせられた。
    横山と語り合うシーン、私は2列目だったので、川口さんと雅野さんの演技はごまかしの
    効く距離ではなかったと思う。
    お二人の流す涙は、真に迫るというよりは「真」そのものであったように思う。
    役にシンクロしてこそ、それは出来ることではなかったか。
    そう思うと、横山の告白を聞きながら過呼吸になるシーン、かつて自分の子供を目の前で
    失ったことを回想するシーン…シンクロするにはあまりにも重いシーンを雅野さんは
    背負いながらこの公演をこなしておられたのだと思うと、その役者としての矜持というか、
    魂に感嘆の思いを禁じ得ない。
    横山とマリコが語り合うシーンは、私にとっては、小劇場、演劇というものに対する
    思いを大いに揺さぶられた思い出に残るシーンとなった。
    上演後、ご挨拶させて頂いたとき、覚えていてくれてるかなぁと、ちょっと心配して
    いたのだけれど、どうやら覚えて頂いていたようでホッとしました。

    プチト(大瀬さゆりさん)
    「流れはさ、自分で選んで流されなきゃ」
    トクダ節炸裂。
    うーん、なるほど、そういうものかと、心の中でうなってしまった。
    美月もまた、プチト同様に流されて生きていくタイプという設定だが、自らの意思で
    流されていくのか、他者を意識して流されていくのか、確かにそこには明確な違いが
    あるが、そういうことを考えたことがなかったので、かなり斬新に響いたセリフ。
    プチトという女性は、ふわふわしているように見えて、実際のところは、本人が
    自覚しているかはともかく、ある種の哲学に基づいて生きているような気がする。
    「生活には正直余裕はないけど、気持ちには誰よりも余裕がある自信があるもん」
    と言い切るプチトはすごいと思う。
    生活にも気持ちにも余裕がない自分には、非常に眩しいプチトという存在。
    大瀬さんは「いつもの致死量」のムーミン役もはまり役だったが、今回も大当たり。
    ご挨拶させて頂いたが、なんというか結構、ムーミンやプチトと同じオーラを
    まとっている感じで、お話ししながらかなり癒していただいてしまった。
    ところで、台本の人物紹介のページを読んで、プチトがガールズバー勤務ということを
    知ったのだけれど、ちょっとというか、かなり意外で驚いた。
    まぁ、いたら人気でそうだよなぁと思いつつ、マモルの心中やいかに、と想像が
    膨らんでしまった。

    マモル(杉浦雄介さん)
    「その人の言ってたことの中に嘘はなかったんじゃないかな?」
    紛れもない嘘で傷つけられたモッチーに対して、語られた理想を信じた結果、それに傷ついた横山。
    横山の元カレにマモルは自分の姿を重ねたように思う。
    マモルは理想を追い求める青年であり、酸いも甘いもかみ分けた良子からすれば、その姿は
    眩しくも危うく映るのかもしれない。
    ただ、当の本人にはもちろんそんな気持ちは一切なく、ただひたすらに自身が正しいと
    思う道を進んでいる。
    プチトが自分を待ち続けることで、あるいは横山と同じ轍を踏むことになるかもしれない…と
    マモルが思ったかどうかは分からないが、マモルにしてみれば、横山の元カレを擁護したい
    気持ちは多少なりともあったように感じた。
    彼にとって、良子の言葉は、新たな一歩を踏み出すための力になるが、必ずしも耳に心地よい
    言葉ばかりではなかったろうと思う。
    耳が痛い部分も多々あったろうが、それよりも何よりも「書きたい小説」を書くのではなく、
    「売れる小説」を書くことへの転換は、彼にとって魂を売るに等しい苦渋の決断ではなかったか。
    彼の中にどんな思いがあったにせよ、最終的に彼が踏み出した世界は、彼が夢想した世界以上に
    素晴らしい世界だったのではと思う。
    マモルを演じておられた杉浦さん、めちゃめちゃいい声してんなーと思いながら、終始、彼の
    セリフを聞いておりました。
    個人的にはあの男らしい体躯と、低い声で、大好きなのはりぼんの世界なのかぁと、内心で
    ニヤついておりました。
    バリバリの男らしい野太い役を演じるところもいずれ是非拝見してみたい。

    琴子(鶴たけ子さん)
    「こういうタイミングだから言えることってありますよ」
    モッチーに告白を促すシーンのセリフだが、これまでの琴子だったら、このセリフを言えただろうか。
    人に嫌われることを恐れて、終始、無難な発言に終始し、決して踏み込まない彼女にしては、
    そうとう踏み込んだ発言だったと思う。
    この言葉を発した時、琴子は自身の成長を感じたかどうかは分からないが、個人的には、自然に
    出た発言のような気がする。
    後になって振り返って「わたし、あんなこと言ってたんだ」と驚いたのではなかったか。
    彼女の人物紹介の項を見ると「抜本的な能力が低い」と結構な書かれようだが、何事にも消極的な
    彼女の姿勢は、どこか自分に重なる部分もあり、ちょっと他人事じゃないなぁと思いながら、
    観劇していた。
    ただ、序盤で笠原に対して、辞退を申し出るシーン。
    あれって結構勇気がいることだと思うんだけど(しかも何人かその場にいる中で!)、悩みつつも、
    それをやってのけた琴子は、個人的には、芯の強さがあるんじゃないかと思っている。
    終盤、モッチーと二人で飲むシーン、積極的にモッチーに話す琴子は、どこかスッキリとした
    雰囲気で、私としては、横山もさることながら、琴子もまた、大きな成長を遂げた一人なのでは
    ないかと思う。
    彼女は序盤から、人当たりの良い、明るい雰囲気ではあったので、全体的なテイストは終始、
    変わらない。けれど、作られた明るさと、自然な明るさという、内包するものは大きく変化
    しており、その辺りの微妙な変化を、鶴さんがとても繊細に、そしてきれいに表現されていたよう
    に思う。

    畑中(大薮みほさん)
    「でも、こんな変わり方嫌だぁ」
    登場時から、これは結構頑固なのが来たな、最後まで手を焼く系かなと思いきや、序盤から、
    琴子を羨んだり、変わりたいと、言葉にまで出してしまう姿を見て、おやおや?と思っていたら
    中盤でこれである。
    全編通じて、舞台上も、そして客席も一番、暖かくて柔らかい空気が流れたのが、この場面
    だったような気がする。
    「かくあるべし」というイメージが非常に明確であるがゆえに、そこから外れることは、
    本人には屈辱的とも言ってよい事なのだろうと思うが、その副産物として、自分がずっと
    願っていた「変化」を手にする。
    トクダさんも良い意味での意地悪な演出をするなと思うが、畑中にとっては彼女自身の人生に
    おいて大きな転換点になるのだろうなと思う。
    畑中を演じる大薮さんは「嫌悪」の表現がとても秀逸で、序盤の琴子が持ち帰ってきたパンの
    くだりは素晴らしかった。嫌悪の表現って、どこか大袈裟になりがちで、ちょっとやりすぎでは?
    という演技もあったりするのだけれど、大薮さんのそれは、表現は抑えつつも、それが何だか妙に
    リアルに感じた。
    かと思えば二日酔いのシーンのように、素の表現も見事にしてのけて、演技の振り幅が素晴らしいなぁ、
    ご挨拶したいなぁと思っていた。
    実は終演後、席を立ったら、本当に目の前におられて、終演直後の感動と、いきなりご本人が
    目の前にいた驚きに頭が真っ白になり、結局、幼稚園児のような感想しか言えなかった。
    次回はもっとしっかりとご挨拶したい。

    美月(星野李奈さん)
    「でも、私は、もう少ししっかりしなきゃですね」
    え?そうなの??と思ってしまった。
    しっかりしてるかどうかはともかく、個人的には、美月は全然、そのままで十分に魅力的な
    人間だと思うし、プチトがいうように「人の目気にして流されに行っちゃう」とも思わなかった。
    だが、台本を読み返し、色々と思い返してみると、あぁ、言われればそうなのかもしれない
    と思い始めた。プチトの慧眼、おそるべしである。
    私は美月のことがかなり好き。オシャレで、快活で、気さく。一緒にいたら絶対に楽しいだろうな
    と思う。
    そう思わせる人間は、世の中に一定数いるわけなのだけれど、そういう人にも、そういう人なりの
    悩みというものがあるのかな、と思った。
    台本を読み返すと、超序盤で「そう考えたら、私すごい嘘つきだなぁ」と語るシーンがあるのだけれど、
    これこそが、美月の影の部分の象徴なのかもしれない。
    でも、美月は好きだなぁ。
    星野さんの演じる美月はすごく眩しかった。どんな場面でも美月がいると、何となく、場が和むというか
    華やかになるというか、空気感が変わるような気がしていた。話し方にも芯があるというか、
    力強さを感じて、気持ちが良かった。
    美月と琴子が腹を割って語り合うシーンを見てみたかったような気がする。

    ※番外
    運営 森谷菜緒子さん
    私が初めて森谷さんの演技を拝見したのは埋れ木さんの「降っただけで雨」。
    うわー、すごいな、この人。かっこいいなぁ。
    そんな森谷さんがこわっぱちゃん家の「いつもの致死量」に出演されるということで、観劇。
    あぁ、やっぱり、すごいなぁ、素敵だなぁと思っていたら、まさかの卒業。
    しょんぼりしつつも、こわっぱちゃん家という素晴らしい劇団に出会い、こうしてまた素晴らしい
    舞台を観劇することが出来たのだから、なかなかに、人生、そして小劇場界隈というのは、面白い。
    もうこの界隈で森谷さんをお見かけすることはないだろうと、勝手に思っていたので、スタッフとして
    働いているお姿を見ても、最初は「ずいぶんきれいな人がいるな」くらいにしか思わなかったの
    だけれど、まさかの本人で大驚愕。
    物販も担当しておられて、その時に本当に少しだけご挨拶させて頂いた。
    いやー、こんなことあるんだなぁとちょっとしたミラクルに感動。

    どの演劇も終演後は役者の皆様一人一人にご挨拶をしたくなる。
    ただ、時間的にも場所的にもそれはなかなか、というか、かなり難しいことで、挨拶できない、
    もしくは数人のみというのが常。

    それでも演劇の感想は、やはり関係者の方にはお伝えしたいので、これまで感想はなるべく
    書くようにしてきたが、今回ほど、時間をかけて書いたのは初めてのこと。

    感想を書く都合もあったが、台本を何度も読み返すという経験も初めてで、読むたびに新たな
    発見や、思い出が深まり、改めて、本作のすばらしさを実感した。
    私のこれからの人生にも少なからぬ影響を与えると思う。

    正直、まだまだ伝えきれていない思いはあるのだけれど、とりあえずは、いったんここで終了。
    無駄に長いだけで、伝わりにくい文章だけれど、一番お伝えしたいことは、とにかくこれ。

    素晴らしい舞台を本当にありがとうございました!

    0

    2019/09/28 23:27

    1

    0

このページのQRコードです。

拡大