国粋主義者のための戦争寓話 公演情報 ハツビロコウ「国粋主義者のための戦争寓話」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    鑑賞日2019/09/25 (水) 19:00

    戦争寓話」というタイトルから、この話から何を得るのか。戦争の愚かしさ、信じることの恐ろしさ、エゴの醜さ、差別意識の根深さ、まあいろいろと考えられる。
     龍巳少尉が担わされる、ロケット型戦闘機によるB29迎撃作戦。過酸化水素水による過激な爆発力を用いたこの作戦自体が、かなり荒唐無稽で、山中の基地に持参してくるロケット型の模型もなんとも滑稽だ。そう、この話の設定自体がすでに現実から乖離している。

    ネタバレBOX

    そうこの話は寓話であり作り話なのだ。
     この話には、2組の兄弟が登場する。物語に登場している龍巳大尉(タケオ)と彼が招き寄せたパイロットの龍巳少尉(フミオ)。そして、伝説で化け物退治に出かけた太郎と次郎である。
     この2組を重ね合わせてみる。龍巳大尉は、縄文時代から連綿とこの土地に住まう人々こそ本当の日本人だとして彼らとの共存を望み、自分の部下たちを殺戮する。龍巳少尉は、国家存亡の危機(帝都への原爆投下)に際して、国家そのものである皇室を守るものこそ本当の日本人だとしてそのために命を捧げようとする。太郎は欲望に身を委ね大蛇に食われ、次郎は克己し大蛇を退治する。

     そもそも寓話である以上、この話は現実ではない。となれば誰が作ったのか。生き残ったのは、龍巳少尉とタイラ村の女とその精神薄弱の娘のみ。朽ちかけたロケット型戦闘機も、壊された無線機も登場せず、村から連れてこられた人々の大半も登場しない。生き残ったタイラ村の2人の女たちも、山で一晩過ごしたために村には戻れないという。
     そうこの寓話自体が、龍巳少尉の作り話だったのではないか。だからこそ、弟は大蛇を倒す知恵を持ち、橋の先に兄を含めた骨の山を見つけたのだ。
     精神薄弱の龍巳兄弟の妹ツキコは兄タケオを慕っていた。それはまるで支配するように。弟のフミオはツキコを人々に強姦させることで、兄への嫉妬からの解放を願い、一方でツキコの自殺をもって消えぬトラウマを負ってしまう。その贖罪として、地べたを這いまわる存在から広大な空を夢見、そして兄の死が必要ではなかったか。そして、この贖罪を成就するには、自らの優位性を担保する必要がなかったか。
     フミオは強弁しタケオよりも日本人としての優越を手に入れ、タケオを自らの手を汚さずに亡くし、大空への憧れを村の女に語ることで贖罪を成就する。国粋主義者であろうとしたフミオは、自らのためにこの寓話を作り上げたのだと思う。

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    2019/09/27 11:42

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