国粋主義者のための戦争寓話 公演情報 ハツビロコウ「国粋主義者のための戦争寓話」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    戦争という事実に伝承という土俗的な内容を挿入させて、人の疑心暗鬼を誘い狂気を浮き彫りにするような公演。タイトルにある「国粋」の対象は…。物語は、戦争という極限状態、山奥・山里という限定空間、目的遂行までの時間制限など、選択余裕のない状況下を設定し、人間の精神・心理を激しく揺さぶる。まさしく戦争という不条理劇。その緊張感や緊迫感がリアルに迫ってくる、実に観応えのある公演だ。
    (上演時間2時間)

    ネタバレBOX

    舞台セットはベット大の箱、そこも含め床一面に藁。別に置台に破れた日の丸国旗がある。全体的に薄暗く、山奥という雰囲気を漂わすと同時に得体のしれない不気味さを表す。そして時に照明を暗転し懐中電灯を照らし、何かが鳴り軋むような音響が緊張感をもたらす。また箱への上り下りが躍動感を生んでいた。

    物語は終戦間際の8月上旬の約10日間を描いているようだ。冒頭シーンの日こそ分からないが、それ以外は広島原爆投下、長崎原爆投下そして終戦を知らせる無線傍受という台詞から日の経過を知ることが出来る。
    米軍機の攻撃に対してロケット式軍機で迎撃する作戦(キ203号)を立案し、その秘密基地へ向かうが先遣隊が忽然と消えて…。先遣隊が消えた原因を探るというミステリー仕立て、そして山奥にある自称、平家落人村の魔物(蛇女)伝説というサスペンス風な観せ方は、戦時中と相俟って一層緊迫感を生む。この地から縄文時代の鏃などが発見され、遥か昔から人が住んでいたらしい。

    さて「国粋」主義者の論議。
     1つは主人公の龍巳少尉(草彅智文サン)と先遣隊指揮官であり少尉の兄である龍巳大尉(松本光生サン)の言い争いに集約される。少尉の青年将校らしい 皇室皇統の「万世一系」は至上の価値であり、日本国は優れた特別な存在と言い、大尉はそれより以前に居た人間、その先住民こそが真の日本人だと言う。国家存亡の危機という現在(戦時中)、そして縄文時代という過去を掘り返し「国粋」を土着順といったことで議論する滑稽さ。
     2つ目の「国粋」は情報、世論、風潮といった見えざる手といったことだろうか。蛇女伝説は、橋を渡った先で美女に化けた蛇が甘言を弄し不用心になった人を食ってしまい、骨で山が出来ているというもの。終戦間際らしく、軍司令部の統制は不能に陥り、情報は虚実綯い交ぜになり正常な思考が出来ない。その見えざるものに飲み込まれている様はまさに蛇女伝説そのもの。そこに戦死者の山を連想してしまう。無謀な戦意に煽られ雰囲気に流されそれに慣らされてしまう怖ろしさ。
     また兄弟には白痴妹(登場しない)がいたが、今は亡ない。何かと手に負えないことから集団強姦を仕組んだ結果…。この負い目がフラッシュバックし、さらに少尉の精神状態を追い詰めるという色々な要素を盛り込んでいる。

    役者陣は、まず坊主頭、軍服姿という外見で観せる。そして緊迫した状況下における精神状態、軍隊という階級社会の中での立場・言動を実に上手く表現している。そこには戦場未体験者の将校(少尉)と戦地を転々とした兵士の理屈を超えた説得力。現場を知らない上官という悲哀と虚勢、そこに見るアイロニーが悲喜劇のように思える。そして時季的に蝉の鳴き声が騒がしいほどの音響であるが、蝉に掛けて「(少尉の)今だ空を飛ばず、地面を這いずり回る」という言葉が端的に精神状態を表す、実に見事な公演であった。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2019/09/26 00:24

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