君へ 公演情報 T1project「君へ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     華5つ☆ ベシミル!!

    ネタバレBOX

     T1プロジェクトの新作だ。24ヶ月プロジェクトを修了したばかり、初舞台というメンバーが3分の2程居るが役者間の呼吸が合っているのはずっと一緒に芝居の道を学んできたという事とアテガキの科白も結構あるということなので自然体に近い所で演じることができているようである。作・演の友澤氏は多くのTV番組を手掛けてきたばかりではなく劇作も60作程になるか。人間を描かせると科白に深みのある良い作品を書く人だが、今回の舞台は経営難の動物園の話だから、生命の生き死にの本質について書き込める設定だ。動物園の動物たちの生き死にと人間の生死を生き物の生死という同列の形で扱っている視点も、エネルギーの無駄遣いと生き物たちの生息環境破壊によって凄まじいスピードで人間以外の殆どの生き物を絶滅の危機に追い込んでいる現在の我々にとって、命を等し並みに観る視点は極めて重要な意味を持ち得る。このまま他の生き物の生息域を奪い続けるような環境破壊を続ければヒトの時代の終焉は近い将来であることは間違いあるまい。が、この辺りは軽く示唆し、今作では園長が末期胃癌で余命3か月という情況を描く。而も彼は尊厳死を望んでいる。この問題を法的に認めている国もあり、日本のように認めていない国もあるが、実に微妙で難しいことを扱うことで作品に締まりが出、緊張感が持続する。脚本は、設定が成功すれば半分出来上がったも同然と言われるほど設定が大切なことは言うまでも無いが、この辺りの上手さは流石である。新人が多い分、ベテランが引っ張っていい演技を見せている。特に園長・慎太郎役、妻で副園長・凛役の演技は気に入った。ちょっと生命に対する科学的見地、判断が必要になってくる内容だが、この点でも獣医・多々良と通常のヒトを診る医師・吉崎の二通りの医師が登場するし、他に廃園危機にあるこの動物園の経営・経済を巡る問題も連帯保証人になっている先代園長の息子で現在IT企業社長の轟が己の会社の株式上場と絡んで、人の命を金で計る態度などが描かれている点が興味深い。更に面白いのは新入りの飼育員・安田だ。彼女の父は彼女と母を置いて自殺してしまった。その直後母は彼女を置き去りにしたまま出帆してしまった。彼女の言行には奇矯なものがある。然しながら、これは若く感受性の強い彼女流の甘え方なのであろう。奇矯な言動を繰り返すことで叱って欲しいというような。それぞれのキャラの個性が強く、為にぶつかり合い、時には火花を散らす展開も自然に出てくるのは登場人物の行動原理が作家の頭の中でキチンと流れを作っているからだろう。人生中々思う通りに行かないものだとの述懐は誰しも思う所であろうが、思うように行かない人生の中で大切な人を持ち、その人を大切に思い続けながら生きることの出来る人生は、矢張り充実し幸せな人生と言えるだろう。そんな人生の宝物を今作はじっくりと見せてくれる。小道具の使い方も上手い。互いに心底愛し合いながら、経済的不如意等で偕老同穴の契りを結んだハズの夫婦にも離婚の危機は訪れる。その何とも言えぬ微妙な関係を結婚指輪で示して見せる辺りも手練れの技を感じさせる。
     私事を申し上げて恐縮だが、自分の母方の祖父・祖母は顔を合わせれば口論をしているようなジジババであったが、一人が少しでも席を立って見えないと「何処へ行った、何処へ行った!?」と互いに大騒ぎをするので、小さな子供であった自分達から見ても可愛らしくて仕方のないジジハバであった。祖父が亡くなってから祖母は何年も生きたが、臨終の時の言葉は、「八郎が迎えに来た、わしゃ逝く」であった。決して豊かな生活では無かったが最後は次男の家で大往生を遂げた祖母は幸せだったと言えよう。そんなことを思い出させた味と深みのある作品である。

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    2019/09/19 01:09

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  • 友澤さま、皆さま
    アップしておきました。ご笑覧下さい。
                ハンダラ 拝

    2019/09/19 01:14

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