盆がえり 公演情報 演劇集団よろずや「盆がえり」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     丁寧に綴られた脚本に、入念な演出、演技力の高さ何れも素晴らしい。(華5つ☆)

    ネタバレBOX

     舞台は現在次女・美佐が家督を継いでいる広島の山間部にある民家の離れ。手前には沓脱石が据えられ、9畳の板の間の奥には6畳分の茣蓙が奥に敷かれている。名家などという訳ではないが、地元には地元の仕来りがあり、美佐はそれを背負って生きている。然しながらその彼女は亭主・亮治が優しいこともあって、現在東京で働き中間管理職となった成績優秀だった長女・枝実、矢張り成績優秀で現在県下の大学の研究者として活躍する三女・希梨と異なりお喋りはするが、本当に人情の機微を危うくするようなことは基本的に何も語らない、極めて繊細で優しい美佐の、一見、ナマケモノにも、まただらしなさや常識外れにも見える生活態度、人間関係作りを象徴するシーンで始まる。これが凄まじく上手い。というのは、亭主が一所懸命、東京に居る姉、市内に居る妹ら、家族や親戚が盆で集まるので、築百年を超え、人が住まなくなって荒れた為、近々取り壊し予定の隠居身分になった爺婆さまが住んだこの離れが物置として使われていたのを片付けようと一所懸命に働いているのに、捨てる物、残す物の選別役の美佐はアルバムを眺め入ってはごろごろ、挙句亭主の作業の邪魔をするような言動を吐き散らしては亭主を付き合わせている。更には大の字になって寝入ってしまう。これがオープニングシーンだ。細部まで丁寧に描かれた脚本はこのオープニングで三姉妹の性格や伏線、美佐と結婚する為に勤めていた会社を辞め、1年近く前に移住してきた夫と妻の関係と亮治の性格、親戚との関係などを見事に俎上に載せこの後のストーリー展開を見事に準備しており、役者陣の演技もそれぞれの微妙な人間関係の綾を見事に際立たせるレベルの高いものである。小道具として終盤大切な意味を持つ浴衣の使い方も見事だ。(無論、これはオープニングシーンでの伏線が効いている。長女は誰に似ており、次女は誰に似ているという亮治と美佐の会話部分)。ホームドラマを眺めるように唯ボンヤリ眺めていることもできるかも知れない。が、普通の感性を持っていれば、美佐の持つ幾つかのトラウマが(このトラウマが中々明かされないことも作品に引き付け続けるテクニックとして極めて巧みだ)、表面上それこそサザエさん的幸せに満ちた地方の家庭生活と見えるのかも知れない日常を、極めてドラマチックな針の蓆に転換してくれる。最初、非常識でナマケモノ、在ってはならないだらしない存在と見えた美佐が徐々に可愛い女性に見えてくる。無論、枝実が勝気で何をやらせても人一倍の働きと能力の高さを見せ、而も率が無い女性であるからこそ、東京に出て、女性でありながら、中間管理職を任され仕事に充実感を感じてはいるものの、所詮、男性優位のジェンダー社会の中で本来は自分の責任に拠る訳でも無い責任を取らされる厳しい場所に居て疲れ切り、ストレスを抱え込みながら孤立無援という辛い立場の中、必死に何とか人間らしく在りたいと悩みに悩んでいるのみならず、早くに親を亡くした妹たちの為にしっかりせねばとの責任感と優しさからキツイ言葉もでてしまう事情も自然な形で描き込まれている。(オープニングで美佐が眺めている古いアルバムの写真で母に似ている枝実の話が伏線となっている点、浴衣は祖母が母に縫ってくれたもので、母の棺に入れたこと。盆祭りに三姉妹浴衣で出掛けようと話をしており、枝実の浴衣は母の棺に納めたものと柄が瓜二つであることを利用して、母生き写しの姉が、盆帰りした母に変わり、美佐のトラウマの一つ、風邪を引いた自分を医者に見せる為に運転をしていた父母が交通事故で亡くなり自分だけが後部座席に座っていて助かったことを、美佐が生き残ってくれて大変喜んでいること、また枝実がしっかりして貰おうとしてキツイ物言いをしてしまう事情なども説明し、いつも子供達を見守っているとの科白を吐く)一方、希梨は矢張り優秀な研究者である同僚と市内で同居しているのだが、相手は男性では無い。即ち彼女はLGBTの内のレスビアンである。このことが意味することは地方ではスキャンダルというレベルでの問題であり、下手をすればこの悩みの果てに自殺者が出かねないレベルの問題である。勤める大学内でも噂が立ち始めていることが原因で、希梨は大学を辞めるつもりで今回実家に戻ってきている。何度も掛かってくる電話を無視し続けていた理由は、同居人が遂に希梨を訪ねてくることで明らかになり、これはこれで二人の今後を決して否定的なものとして描かず希望の灯をともす内容に仕立ててある。このように三姉妹それぞれが、事情の異なる極めて現代的で本質的な問題を抱え、それが日常の中に丁度、海水の中に浮かぶブイのように浮きつ沈みつ不気味な貌を晒している所に、今作の凄さを見ることができよう。脇を固める農家を経営する親戚の鉄人さんの味のある演技や幼馴染で法要を営んでくれる坊さん役の一樹も良い。三都市を回る価値は充分にあるしっかりした心に残る作品である。
     唯一、矛盾しかねないのが、母の浴衣を棺に入れたこととをハッキリ科白化して際立たせて仕舞った点(何か一工夫欲しい)、柄が瓜二つの浴衣を三人で行こうと祭りに誘った時点で枝実は着なかったものの、ちょっと気に掛かりはした。

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    2019/09/17 14:34

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  • 皆さま
    東京公演、お疲れ様でした。
    また、お会いしましょう。
          ハンダラ 拝

    2019/09/17 14:39

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