満足度★★★★
選曲に素直な心根が。代書屋でなく代筆屋。冒頭、軽快な音楽に乗って日々の仕事に勤しむフツウ組と、何故か深夜に働く「醜男」の対比をマイムで提示。この現代翻案の部分でやや退潮してしまうのが勿体ない(シラノの翻案前提)。分け隔てしない社長、「友達」になろうと言う若い俳優、そして夜に代筆を依頼して来たヒロイン。意外に慕われる根底には、シラノが武勇と詩の傑人であったように梶野は人を感動させる文章の才がある、と設定すればスッキリする。またシラノの場合その欠点が社会的地位に影響する訳でもなく、力点はむしろ欠点に悩む自意識を乗り越えようとする「心意気」にある。そしてその美徳は孤独にあった老境の彼に報いを与える。
話を冒頭に戻せば、昼勤務の社員が醜い梶野が夜どんな仕事をして収入を得ているのかを知らない事や、見た目に最も冷たいのは見ず知らずの他人であって顔見知りならもっと微妙な線があるだろう・・といった所が序盤のモヤモヤなのであったが、予想外の早い段階で話に引きこまれた。シラノの借用だけでない光る台詞もあり、最終的には無理のない翻案にできていた。
評価点に殺陣、転換(装置)、素直な演技。