桃子と百波、ときどき齋藤、空から茜、大地に山脇 公演情報 劇団鴻陵座「桃子と百波、ときどき齋藤、空から茜、大地に山脇」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

     作家5人の作品が上演可能。但し尺が1作品30分を目安とし、場転を考慮しなければならないから各作品の間に5分の休憩が入る為、全作品を上演するには難がある。この為毎回観客の投票(1人2作品選択)で上演作品3作を選ぶ、同数の場合は協議して決めることになるかどうか、自分の拝見した回は偶々、綺麗に3:2に分かれたので問題なかったため不明。
     演じられた空間はやや横長の長方形、舞台が高くなっている訳でもなければ何か特別な仕掛けが在る訳でもない。展示スペース等としても使える唯の箱型建築。通路や飲み物をストックしてあるスパースが、入った右側にあり、このスペースを取った上で3方の壁に平行にコの字型に客席が配置され、コの字に囲まれたスペースが演技空間だ。演目によってパイプ椅子や小道具が適宜設えられる。以下今回の上演順に3作のレビューを記しておく。
     3作品に共通するコンセプトとしては、アイデンティティー、アイデンティファイに関わる作品群と見受けた。その理由は、己が存在・個別の経験をベースに作品化することで捉えなおそうという試みであると感じたからだ。フェイクニュースや情報に溢れ、ホントに信じられることなど殆ど無い現在、己の生きる環境、状況が信じるに値しないのではないか? との疑問を抱くのは必然と謂わねばなるまい。であれば、己を構成するハズの情報を疑う己自身の検証に向かうのもまた必然であろう。何人もこの事実に向き合わざるを得ないし己で解答を見出さねばならない。それはデカルトが方法序説を書くに至ったと同じ理由からである。だからこそCogito ergo sum.なのだ。因みに作家たちは皆学生さんであるようだ。

    ネタバレBOX


    「愛着」岸田 百波作
     男と女それぞれの性(さが)が良く出ている作品。多少なりとも男女関係が理解できる人々にとって当たり前に見えることは、逃げる者は追われ、追う者は逃げられるという心理現象だろう。一方、原人以降の人間史を垣間見ると♀は、住居を根城に周辺の木の実採集や子育てなどをその働き場とし♂は狩猟等で遠くまで獲物を求めて狩り、持ち帰るという作業に従事してきた。性的にも♂は広く種を撒くことが主眼だが、♀は良い種を受け、より強く、賢く状況適応力の高い子孫を残すことが主眼である。二足歩行に移った後、人類は手を用い、道具を作って用いること、コミュニケーション手段を非常に発達させたことによって脳の能力を拡大してきた。その結果、知恵や技術力によって地球上の王となった訳だが、その分、本能のみによってではなく自ら発達させた社会や習慣、文化や歴史、己の社会的・経済的位置等によっても己を縛られることになった。これら総ての要素の中で人工的で無い物は、最早殆ど無い。大ざっぱに言えば身体のみが除外され得るが、歯の治療、様々な怪我の治療に用いられている人工物等が己の体の一部を形作っていない個体を探す方が難しかろう。このような状況の中にあって、男は本能的に自由を求め、女は本能的に恋を求め得た恋人を縛ろうとする。今作では、形の上では女が振った。然し残る未練を自分自身に隠す為に彼女自身が「愛着」を「愛情」と取り違えていたとして自己救済を図ろうとしている。それは、自身で本人役を演じない点からも証だてられる気がする。プロの劇作家を目指すのであれば、生き乍ら覚醒した状態で己自身を腑分けしなければならない。表現者の世界はそのようなレベルでの弱肉強食だと考えておいた方が良い。
    「でーと」山脇 辰哉作
     兄と妹が居る、シングルマザーに育てられた次男がヤンキー上がりの母、妹らと実家で久しぶりに会うことになる話だが、何と園に通う頃彼の頭は金髪に染められ後頭部には辰の字が剃ってあったというママ振り。これはちょっと仰け反る。自分の周りにも族のアタマ張ってた若い者が居たり、組に入ったのが居たりで所謂ヤンキーには事欠かないが、これはちょっと驚きである。で彼は結果的に大学に入った位だから、母の言動が大嫌いだったし、大嫌いな母を反面教師として自らを作り上げて来たのに、久しぶりに会った母の変容ぶりに愕然とし、自らのアイデンティティー崩壊の危機を迎えたようである。無論、大学生にもなって様々なことを理解している彼は、そんな母を本当はどこかで庇ってやれるだけの力を獲得し実践しつつある。若者らしい優しさやデリカシーと爽やかさを持つと同時に独自の押しの強さを持つ彼に、もっと年を重ねた段階ではトレーランスも発揮できるようになって貰いたい。
    「友達とケンカした」佐藤 桃子作
     かなり内向的な女性の作品。内向的故に余り自己主張が得意でなく、本当に自分が傍に居たい、居て欲しいと願う友達も極めて少ない彼女の子供時代、一番大事だった友達との象徴的で決定的な溝が生まれた経緯と今も彼女が引きずる念を描いた作品。
     その大切な友人の名前がアキで男女の役者がアキを演じるので、アキの実態の特定がしずらい。ホントに内気な人のようなので未だ、他人と自らを仮借ない目で見比べることや、関係の中に在る自分が関係を秤に掛けて分析し己の内実というものを対象化しつつ、己の内実を保持できるようなら大化けする可能性を秘めている。

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    2019/09/11 15:05

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  • 皆さま
     アップしておきました。ご笑覧下さい。
    一番目の作品についてが一番長い文書になっているのは、自分の考え一般も書いてあるからです。皆さんの栄養になりますよう。
                                    ハンダラ 拝

    2019/09/11 15:12

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