満足度★★★★
ミステリファンは随喜の涙のホームズ誕生譚である。だが、シャーロッキアンのような物知りファンだけでなく、ただの芝居好きも面白く見られるところがこの芝居がいいところだ。
かねてミステリ好きを公言し、自作でも著名作品の脚色でもミステリ作品を成功させてきた三谷幸喜ならではの舞台である。
時代はドイルの原作を踏まえた19世紀末のロンドン。27歳のホームズ(柿澤勇人)が、相棒ワトソン(佐藤二朗)と探偵の仕事を始める前の前日譚である。ところどころにドイルのホームズ原作を織り込みながら、四つの事件が解決される。ことに、最初に持ち込まれる事件が、ホームズ自身の兄弟の物語と重なってくるあたり、巧みな展開の第一幕である。兄(横田栄司)の住まいが芝居の街・コヴェント・ガーデンとか、売れない女優(広瀬アリス)を使っての芝居仕掛けとか、芝居好きも喜びそうな凝った設定である。なるほど、芝居とミステリは、さまざまな点で共通点が多いと納得する。
二幕は、シャーロック・ホームズが兄との葛藤を経てワトソンと探偵業を始めることを決意するドラマが軸になっている。ここで兄弟の対決をカードのランタンというゲームで見せるが、ここはさすがに苦しい。カードは小道具としては小さすぎて、やむなくスライド投射でスクリーンでゲームの経緯を見ることになるが、そうなると舞台から気持ちが離れて仕舞う。本格ミステリを芝居にすると、証拠品やアリバイのタイムテーブルを見せにくい舞台の難しさである。だが、その二幕でも、ミステリらしく、事件の解決で思いがけない犯人を指摘する。最後は、ドイル原作のホームズ物の第一作「緋色の研究」の冒頭につながって大団円になる。
ミステリならではの面白さを細部にわたって引き出している脚本で、荻野清子の舞台での生演奏や、幕間的なワトソン夫妻のデュエットなど、お遊び的な仕掛けもうまくはまって休憩をはさんで2時間半、堪能できるエンタティメントになっている。制作ホリプロ、頑張ってA席を一万円以下の納めたのはご立派。