満足度★★★★★
3年前に、METライブビューイングで見た時は、変な話だなというのが第一印象だった。ヒロインは血に飢えた冷酷女だし、ピンポンパンの幕間劇は全体の中で浮いているし、それまで誰も解けなかった三つの謎をカラフがいとも簡単に解くのは非現実的だし。謎解きは、昔ばなしでは大体主人公を助ける影の知恵者(特別な老人、ねずみその他)がいるものだ。この作にはそういう仕掛けはない。
そう思っていたのだが、二度目の今回は音楽の見事さに大いに気づかされた。重く凄みのある幕開きの低音のモチーフ、不安と移ろいを表す前衛的な音楽と親しみやすいメロディーの両立。客席を圧倒する豪華なオーケストレーションなど。有名な「誰も寝てはならぬ」のメロディーも、カラフが歌うアリアの場面以外にも効果的に使われている。その前に一度伏線として、またプッチーニ死後に補作されたフィナーレで大々的に演奏されて、この大作のしめくくりになっているのも見事である。
バスチューバ(?)や銅鑼など、超低温を効果的に使って、権力のこわさ、不気味さ、死の儀式を感じさせる箇所が多い。ここには、第一次大戦を体験したプッチーニの暗い気持ちがあらわれているそうで、なるほどと思った。
割と盛沢山なストーリーに思えるのだが、時間は正味2時間10分と、意外とコンパクトなのも発見だった。休憩込み3時間(1幕45分、休憩25分、2幕45分、休憩25分、3幕40分)3幕はアルファーノの補筆をトスカニーニがカットした、もっとも演奏されている版。これがいいと思う。
来日したバルセロナ交響楽団が、ピットに入るというのも驚いた。通常は主要ソリストは海外からよぶものの、オーケストラは在京の交響楽団が交代で入るもの。専門的なことは分らないが、それでもバルセロナ楽団の音楽は素晴らしいものだった。弱音もはっきり聞こえるバランスと、大音響のときも繊細さと豊かさを失わない。なかでも低音の迫力は圧巻で「トゥーランドット」にあっていた。