ジャン×Keitaの隊長退屈男 公演情報 青年団国際演劇交流プロジェクト「ジャン×Keitaの隊長退屈男」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    三島景太さんの1人芝居。なのにラストまで、舞台上の熱量がまったく変わらず、惹き付けられた。凄すぎる。そして、これが翻訳モノとは! の驚き。


    (ネタバレBOXへ続く)

    ネタバレBOX

    この作品で唯一の軍歌に導かれて、冒頭から少しの間は威勢の良い言葉が並ぶ。
    しかし、そこに「過去の思い出」が紛れ込んでくる。
    軍隊での演芸会のようであり、また明らかに盆踊りの櫓でもある。黒白の提灯と紅白幕の残骸。

    隊長はお盆に帰って来ているのではないか。

    隊長によって行われる、一種の狂乱のような踊りや流れる歌謡曲、それは彼の頭の中での出来事だろう。

    これを見ながら思い出したのは、映画『ジョニーは戦場へ行った』で、手足を失い五感も失ったジョニーが、意識があるのに誰ともコミュニケーションをとることが出来ずに、頭の中でひたすら過去を思い出し、妄想を重ねていく。

    隊長のこれらも、ジョニーのそれと同じではなかったのか。

    隊長は自分の頭を撃ち、ジャングルに朽ち果てようとしている。
    たぶん部下などにそのまま置き去りにされたのではないか。戦傷ではなく自殺だからということもあろうか。

    隊長は、死ぬまでのわずかな、あるいは延々と続く時間を自分の過去や妄想の中にいるのだ。

    そしてその妄想の中で、軍隊の演芸会と郷里の盆踊りが交錯して、一人舞台が始まっている。母や家族のこと、彼にかかわりのあった女性たちの象徴が赤いドレス。彼は彼女たちとも一体化していく。
    軍人である彼も時折顔を見せる。

    酒を櫓の周りに撒き、死者と生者との間に結界を作る。ビンからこぼれる砂は骨。線香を点け、供養が続く。彼自身が自分も含め供養していくのだ。

    草の陰に斃れ、土に還っていった、数百万人の人々。日本人だけではなく、軍人だけでもない。そうした人々へのレクイエムである。

    彼を含む供養してもらえないまま異国の地に眠る人々に向けての供養。時間とともに忘れられていく人々への供養。

    彼は櫓の上にいて、ジャングルの道ばたにもいる。そして朽ち果てていく。それさえも彼は見て(感じて)いる。

    ラストは彼の魂が天に昇っていくようであり、あまりにも美しい。
    しかし、ジャングルの道ばたで斃れ土に還った彼の、いや彼らの魂は、天に昇ることが出来たのだろうか。

    彼が終始話していた「揺さぶるのはやめろ」の意味は、「死者を忘れるな」ということであり、さらに「死者を起こすな=2度と同じ過ちを繰り返すな」ということではなかったか。

    そうした意味においても、この作品で気になったのは、彼が将校であり、すなわち職業軍人ではないかということだ。

    彼はたぶん中尉で小隊長。
    赤紙一枚で戦場へ連れて行かれた兵とは違うような気がするからだ。もちろん将校と言えども、望んで軍人になった者ばかりではないだろうが。

    どうでもいいことだが、「そんな無理言うな」って話だが、隊長=三島景太さんの肉体があまりにも整いすぎていた(笑)。痩せこけた姿だったら、さらに鬼気迫ったものとなったのではないか。

    私は、(運良く?)上演中にお線香を手向けることができた。

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    2019/06/26 06:02

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