オフィス上の空プロデュース・トルツメの蜃気楼 公演情報 オフィス上の空「オフィス上の空プロデュース・トルツメの蜃気楼」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    アイドルを目指した女性を通して夢と現実とは、というある意味普遍的な問題を示している公演。すべて女性キャストで描くことで恋愛話を排除し、問題を逸らさず夢と現実に焦点を当てることによってテーマが鮮明になる。
    自分はまだ何者でもない、いや、やりたいことすらも定まらず、何となく目の前の与えられた仕事を行うだけ。モヤモヤとした心の内に鬱積してくる不安や苛立ちを、親友の死や職場の状況から浮かび上がらせた心象が観る人の共感を誘う。
    (上演時間1時間45分)【Aチーム】

    ネタバレBOX

    セットは、(木)枠のようなものが重なり合った不可思議な造作。それは不安定であり重なり合うことによって補完(助け合い)するような心の内であり、また主人公の故郷である富山県・立山や今住んでいる東京・高層ビルの風景をイメージすることができる。その意味を持っているのかいないのか分からない後景、一方前景には現実に働くオフィスを思わせる机・椅子、パソコンが四方に配置されている。この舞台美術が物語のイメージを醸し出しているようで面白い。

    梗概…編集プロダクション・サニーサイド舎で働く横井ユリ(27歳)が、先輩からアイドルにならないかと誘われることによって物語が動き出す。本人は自分がアイドルになれるのか半信半疑、しかし心は揺れ動く。実は高校時代の親友が自分の名前・横井ユリを名乗り芸能活動をしていたが、TV画面の華やかさの裏にある厳しい現実のため自殺をした悲しい出来事があった。親友の心情を探るため、自分自身も短期間アイドルを目指した時期があったが…。ラスト、誰のためでもない、自分の人生を歩み出す。
    現在と自分の心にある親友との思い出・幻影、その交差するような展開は現実的と抒情的といった違いで観せる演出の巧みさ。

    登場人物のキャクターと立場をしっかり描くことで、物語の展開とそこで交わされる台詞の応酬に観応えが生まれる。プロダクションで働く取締役は経営責任、一方アルバイトは気楽、正社員は副業や校閲業務に拘りを持つ者。そして主人公は何事にも自信を持てない派遣社員、いわゆる普通の人々を描く。他方、容姿・年齢に関わらずアイドルを目指すユニットは、夢・希望を諦めず信じる道を進むという夢追い人(親友アヤも含め)のような。そして芸能プロデューサーは現実的考え方の持ち主。考え方や立場の違いによって発せられる台詞、それには正解も不正解もなく、あるのは今ある現状のみ。人の生き方は人それぞれだが、自分の意思のようなものが見出せないもどかしさ。何者でもない、それどころか何者になりたいのかさえ見つけられない迷い人...しかし人は皆”明確”な意思を持って人生を歩んでいるのだろうか?

    物語の圧巻は、芸能プロデューサーとアイドルユニットの愛梨(通称あいりん)の夢・アイドル議論。醒めたビジネス感覚と熱き思いのぶつかり合いは、どちらの言い分も分かるような気がする。あくまでアイドルを介在させているが、この議論は夢ばかり追い求め、いつまでも現実を見ないという夢と現実の狭間で悩む普遍的なテーマが透けて見えてくる。台詞の応酬、そこで発せられる言葉は鋭く、そして輝いている。それが手の指の間から零れ落ちるようで勿体ない気がしたが、文字で読んでも...。やはり体内から発した言葉には魂、言霊の力があり物語を観応えあるものにしていた。
    「好きなことは仕事にしない、でも好きなことからは離れられない」⇒自分にとって演劇は好きだが仕事には出来ない。でも観劇し続けたい...なんて含蓄ある台詞だろうか。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2019/06/22 08:51

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