THE NUMBER 公演情報 演劇企画集団THE・ガジラ「THE NUMBER」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     原作はロシアの作品ということで納得がいった。

    ネタバレBOX

    ザミャーチンは1920~21年に掛けて執筆したとされているが、無論ソ連で出版されることは無かった。初出版は英訳版が1924年NYで、ロシア語版が1927年にチェコで為され、ソ連での出版はペレストロイカ以降である。ヴォルシェビキにも関わった彼だったが、このように早い時期に、今作のような作品を書いた彼の慧眼には驚かされると共に、レーニンをして止められなかった組織の論理にこそ、現在を生きる我々へのメッセージを汲み取るべきであろう。
     基本的に当パンだの、フライヤーに書いてある説明などの予備知識を排除して観劇する習慣なので、観劇中は、ひょっとしたら日本の官僚主義批判或いはアイロニーと取れる部分もあるな、などと思いながら拝見していたのだが、冒頭に書いた通りの感想を得たのは、観劇後劇団の方から伺ってのこと。
    旧約聖書の楽園追放の場面が幾度となく繰り返されるが、この寓意が今作では知恵の実を食べ結果として知恵をつけた罪を問う物語としてより、寧ろ自由と幸福の内人間は自由を選んだことにより、欲望を肯定しその結果として欲望充足の社会システムとして資本主義を選んだことによって戦争を不可避のものにし、結果200年戦争を引き起こして人類の99.8%を失い、現在ブルーウォールで囲まれ一点の曇りもない青天井を持つ住環境の下、機械(人工知能)に管理される社会を作って千年の時を過ごしてきた。ホルモンの調整により人々は老いに至ることを防ぐことができ優勢な遺伝子のみを残す政策と技術的進歩により、また管理されることを是とする教育と異分子排除(必ず有罪とされるジャッジメントという一種の裁判を行う)原子分解の刑を受けるので劣性(即ち本能とか自由を求め体制を逸脱する傾向)遺伝子を持つ者は、原子レベルで破壊されるので当然のこと乍ら遺伝子も残らない。
     無限は否定的に捉えられている。というのも欲望のように果ての無いもの・価値観が戦争を引き起こしたと考えらえているせいだが、この主張を数学者が説くという矛盾を内包していることでこのドグマを強制する体制の根本的誤謬を今作は示しているということができよう。というのは、有限と無限が同時に存在するという実例を我々は身近に持つからである。1例を挙げれば球体を1つ考えてみよう。玉は容積を有限とする固体だが、球面上に任意の1点を措定しそこからどの方向を目指すことも自由に出発したとして果てを求めた所で無駄であることは一目瞭然であるからだ。
     また、表現方法として面白いのが、動詞など個々人の判断や思考が如実に現れる表現を省略した表現が多いことが挙げられる。無論、これは受けてに判断を任せることで表現者自身が罪に問われることを免れる為に用いられているテクニックであると同時に、表現を限定しないことで解釈の余地を大きくする効果も狙っているのは無論である。
     また人間の尊厳を奪い、管理の対象物として扱う為に、今作では住民をNo.で呼んでいる訳だが、これは囚人に対する扱いと同じだということも指摘しておきたい。
     ところで、反逆の根底にあるのが、単に論理ではなく、我々の抗いがたい本能と疑問を持ち解決しようとする営為である点も見逃せない。


    1

    2019/06/21 13:29

    0

    0

  •  皆さんの熱演と作品選択の面白さ、演出の妙、原作者の卓越した視座など、観劇後、考えさせられる作品ですね。
                                  ハンダラ 拝

    2019/06/21 13:40

このページのQRコードです。

拡大