獣の柱 公演情報 イキウメ「獣の柱」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    不全感を残したにも関わらず☆5を打ちたくなる・・そのexcuseは一先ず省略。
    本作初演は観ていた。またその元ネタを含む4短編から成る「図書館的人生」も10年近く前、放映されたNHKシアターコレクションで見た。これが私のイキウメ事始で、番組では他に昴「親の顔が見たい」、ミクニヤナイハラ、モダンスイマーズ舞台を紹介、劇団渉猟を始めた身にとってはNHK様様であったが、、僅か10年の間に日本最大のマスメディアがここまでの凋落ぶりを見せるとは思いも寄らなかった、当時が懐かしい。
    は、ともかく・・星新一ではないがSFや超常現象モノの面白さは短編が最も適しており、アブダクション(宇宙人との接触)の可能性を示唆する現象に躍動する超常現象マニア2人+片方の妹の顛末を長編化した「獣の柱」初演は、気宇壮大な物語もいささか説明が勝って感覚面が追いつかず、悪い方の予想が当った格好であった。不出来に思えた作品、しかも再演は普段避けるところ、改良版「獣の柱」を見込んで予約した。冒頭浜田氏が客席に投げかける言葉そのままに、「言葉」を獲得する以前の感覚を探り、言葉での説明を先行させない事だけに注力したかのような、空気感を重視した舞台作りが今回の特徴であった。その意味で初演の影は跡形もない。この濃密な空気感は、巨大な廃墟のような具象と褐色系の照明、チェロ主体の旋律、「現象」を示す音響、そして俳優の絶妙な演技が作っているが、架空の世界に体ごと入り込んだ錯覚に観客をいざなう技が、星の理由。
    久々のトラムだったが左右の壁に当日券客が立ち、「判らない」ながら好感触を残して帰路につく客を多く見受けたように思う。

    ネタバレBOX

    不全感とは、、要は「判らない」。だが「判らない」は必ずしも怪しからんことじゃない。
    本作は高知県のとある場所が舞台。「隕石シャワー」の翌日に天文学サークルの若い新メンバーが近くにある小山で奇妙な死に方をしていた事を伝えに、古手メンバー(安井順平)がもう一人のメンバー(浜田信也)宅を訪ねる場面から始まる。
    話を聴いた浜田は、その若いメンバー(窪田人衛)と二日前に出会っていた事を安井に伝える。浜田は隕石を探しに他人の土地である裏山に深夜こっそり忍び込んだが、手ごろな石を発見してほくそ笑んだ時、同じ目論見だったらしい窪田に出くわし、収穫があったかと問われるも真実を隠して追及を逃れる。
    その回想シーンは、そのまま浜田と別れた後の窪田の動きを追う。彼は夜明け近くまで隕石を探し続けるが、そこへ「ラッパ屋」と名乗る男(市川しんぺい)が現われ、「幸せ」をやる、という。そして男の手に握られた「ある物」を見せられると、多幸感に浸り動かなくなる・・。この「ある物」と同じ物質に、安井と浜田も行き当たる。
    浜田の家には出戻りの妹(村川絵梨)がおり、安井は久々に(成人して初めて)彼女を見て思わず好感触を持った事を口にし、後に添い遂げる仲になるが、二人の関係の深化には状況の変化が投影し「事態」の経過の巧みな描写になっている。閑話休題。浜田が隕石片を先輩(安井)に見せた所へ妹が入って来て、手からそれを奪って逃げ、兄をからかうのだが、思わず手からこぼれてテーブルにぶつけ、表皮に亀裂が入った事で兄はカンカンになる。だがこの亀裂から覗いた物質が、問題の現象を引き起こす事をこの段階で「面白おかしく遊びながら」知ることとなる。彼らが顔を強ばらせたのはその日の新聞の一面に、東京渋谷の交差点で発生した大惨事の写真を見た時であった。

    芝居は現代と、二世代下った未来の話に二分される。現代の話は「謎」とそれをを解くヒントを与えられた三人が、急迫する事態に素手で立ち向かうスリリングな話。やがて巨大な「柱」が人口密度の高い主要都市のど真ん中に突き刺さり始め、東京を逃れて戻った高知には縁ある人らも集い、柱(の素材である物質)の秘密を知る数少ない人らが事態をどう受け止めるか、対処するかを束の間の平穏な時間に議論する。このシーンは中盤とラストに、倒置法的に挿入される。そして一気に未来に移ると、人々は現代とは全く様子の異なる世界に生息していた。
    この未来の場面は常に夜で、場所が四国である事とも合わせて同劇団の『太陽』に通じる雰囲気がある。「現代」の登場人物は、ここでは語られはするが既に実在しない。正確には約2名ばかり変わらず存在していて、一人は浜田が人格を変えた状態、もう一人は現代の時点で既に離脱しており、半世紀経っても外見が全く変わらない二人の存在が、最も判らない一つだ。
    「未来」を迎えた時から、その後を占う手掛かりは少ない。作者は描き切れなかったのではないかと私は感じたのだが。

    「散歩する侵略者」は侵略意思を持った宇宙人3体(人間の体に移り住んだ)が、地球人ガイドと契約を結び、人類の概念を学習して侵略に備える話だったが、この侵略者に当たるらしい存在として、本作には島忠(薬丸翔)なる人物があり、「未来」でも変わらぬ姿で登場する。実は島は近頃突如失踪を遂げて話題になった著名俳優で、先の「ラッパ屋」と彼のアウトロー生活の相方(松岡依都美)がたまたま四国の山中で彼と出会うが、元の彼とは全く異なる人間となっている。
    前川作品として普通に考えれば彼は宇宙人が乗り移った身体かと疑うが、誘拐され人格改造されたとしても、宇宙人がそれをした訳で、宇宙人の存在は残る。失踪した浜田も、同じ目に遭遇したと考えられる。
    しかし作者は、「散歩する・・」とは異なる可能性を示唆し、観客に想像させようとする。
    逃げ帰った四国で主要人物らが交わした議論の中で、「柱」はどのように生れどこから降ってくるのかを考えるヒントとして、ある調査結果が示される。柱は地球の成層圏の外から落下したとは考えづらく、またそれらしい観測データは見られない。「柱」とは、地球というシステム(あるいは意思)が自浄作用として製造し、落としている自然現象なのではないか・・。
    これを古来人間は「神」という言葉で表象してきた・・。
    (つづく)

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    2019/06/06 01:53

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