疾風のメ 公演情報 くちびるの会「疾風のメ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    今はない雑遊で数年前に観たきりでご無沙汰だったくちびるの会。アルゴリズムな感じで俳優が動きながら、その中に情念の火がふと点ったような、そんな朧げな記憶で、未完成ながら独自の演劇的言語を持っている印象だった。少し寝かせて(ワインではないが)観に行くつもりが随分経って久々の観劇。
    役者陣が充実しているな。と観終わった後サイトで確認すると、くちびるの会は2014年から活動のプロデュースユニット。俳優には今回出演の野口オリジナル、佐藤修作、橘花凜、鈴真紀史、丸山港都、加藤ひろたか、そして丸山厚人。他に傳川光瑠、宍泥美、一回切りだが小沢道成など。今回初出演が東谷英人、藤尾勘太郎。無敵と言える陣容だ(他は黒田光、聖香)。
    作・演出山本タカの志向は過去一作と今作のみでは判らないが、2000年以降の若者が潜っているだろうペシミズムが作品の前面ではないが通奏低音に鳴っている。俳優各人の持ち味の生きる人物を登場させ、終盤近くまで軽快に飛ばしていた。が、作家山本氏としてはどうか知らないが、もう一歩書ききれなかったように思う。何かが惜しく、悔やまれた。

    ネタバレBOX

    唐十郎の舞台を担った特権的肉体・丸山厚人の起用は、「風男」なる異形の主人公(野口)を世界へ送り出して幕を下ろすという、唐作品を思わせるような劇の構想からだろうか。
    この劇はぶっ飛びな展開と、リアルな・シリアスな現実世界が錯綜する面白さが、実現されていた。俳優の働きが大きい。先の丸山演じる清掃会社社長はシリアスな現実に「理念と情熱」で突き進む第三の道を示して閉塞感に救いをもたらす存在、弱者にたかるゴロツキ(東谷)・子分(木村)・その手先(石黒)、「悪」の狡猾に対し無力な高齢者施設(実際にはこれほど柔ではなかろうが、ある本質を穿ってはいる)には、模範的な主人公と新人(佐藤)、シュッとした男と噂に弱い女性上司(鈴)、ある嫌疑が掛かって辞職に至るベテラン(藤尾)、その後釜(石黒=手先)。
    主人公はドラマ的に二つの側面を担い、これが戯曲の魅力でもあり欠陥にも思われる。介護職という低収入の身分への不全感から、「踏み込めない」主人公に決断を迫る3年同棲した恋人(聖香)と、自分につきまとう「兄」=清掃会社社長にその風の威力で諦めさせて欲しいと頼む街角の風俗客引き(橘)は共に、主人公の自己像を知らせる鏡であり、応援団だ。つまり主人公の男は自分探しと成長の物語の主人公である。
    一方この主人公には子どもの頃、憎しみの目が「風」を起こしたという体験があり(手持ちサイズの風車で恋人によくその話をしたらしい)、成人した彼の憎しみが極点に達したそのときに再びそれは起こる。橘の依頼から風使いとしての修行が始まり、その途上に清掃会社社長との対決、そしてシビアな相手、執拗なゴロツキらの攻撃に立ち向かう事となるが、ここでの彼は、特殊な力を与えられた「選ばれし者」である。
    もちろん「風を起こす」とはある種の比喩とも取れる。意志の力が何事をも動かす、誰しもその力は平等に与えられている・・という。だが物語を動かし周囲も動かすのは「風を起こす」具体的な力で、この力によって彼の性格(あるいはスタイル)を変えない事も許されるとなれば、風は変化の象徴でなくなり、持てる者の特権の構図になる。自信がなく意志が弱いという評価は3年間暮らした女が下したある意味揺ぎない事実で、決して彼を嫌いでない様子から、彼女が高望みをしたのでない事も判る。その彼女は「風」を起こし始めた彼の内に込められたもの=彼自身をやがて認めていく事になるが、孤高を潔しとする境地に至った彼は、風を「起こす」のでなく風と対話し、彼の口癖であった「申し訳ない」態度を貫くことで世界を救おうと旅立っていく(その覚悟を貫くべく日常へ戻っていく、とも解釈可能)。
    「変わるべき人間が変わる」物語のはずが、「変わらなくていい(ありのままでいい?)」の文脈が入り込んでくる。「変わるポイント」がズレている訳だが、では何が変わり何を変えなかったのか、そこがぼんやりしている。
    テント芝居なら屋台崩しの後、吹きすさぶ風の中、場外へ去って行くラスト、そこに様々な未来への希望が仮託される。作者にもその思いはあったろうと想像しつつ、では何が変わりたいと切望されているのか、感覚で摑まえようとしたが掴めなかった。この戯曲の流れでは、風に去って行く幻想的な最後の場面から、もう一度日常に戻りたくなる。
    もし精神世界を描き、そこで完結するのであれば、「現実」場面で取りこぼした藤尾演じる職場の同僚(コンビニでバイトしている)には、最後に「謝り」に行くのでなく力を貸してくれと頼みたかった。「子どもの目」なら「あの人も味方にできる」と、思ったんじゃないかな。

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    2019/04/21 07:42

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