LIFE LIFE LIFE 公演情報 シス・カンパニー「LIFE LIFE LIFE」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    二組の夫婦のウイットに富んだ社交的会話が、酒とイライラの力もあって、互いの弱点を刺激しあう、ジャブを応酬しあうボクシングのような一夜へと変わっていく。それでもシリアスというよりコミカルで、笑いの中で幕を閉じる。しゃれた脚本と、センスある演出家と、うまい役者がそろえば、たっぷりの笑いのなかに人生のほろ苦さも混じる、こんな口当たりの良い芝居ができますよ、という見本のような舞台。
    似ている舞台としては、昨年見た加藤健一の徹底した笑いの「Out of Order」を思い出した。

    若手と、その生殺与奪の権を握る上司のぶつかり合いという点では、先日の「ブルー/オレンジ」と通じるところもある。上司と部下の関係で互いの本音を、時にチクチクと、時にガツーンとぶつけ合う。惨めさも滑稽さもオープンにして笑いのめす闊達さは、日本には難しいだろう。それほど日本の上下関係は骨がらみというか、湿っぽくて陰気で、客観化しにくい

    ネタバレBOX

    他でも書いているように、同じシチュエーションから、それぞれ悲喜劇度の違う3つのバージョンを繰り返す。その違いの根本は、若い夫の性格と人生態度にあるように思った。心構えひとつで、どん底から希望の光まで3つのパターンがありますよと。
    パターン1は、若い下っ端天文学者の夫が最初から最後まで、人事権を持つ上司に卑屈にへつらいきっている。それがために「運に見放された負け犬」と上司に影口を言われていたことに、大打撃を受ける。上司夫婦は勝ち誇って帰り、夫は妻にも見放されかけて終わる。これが45分で一番長く、実は、一番、見ていて笑える。面白い。やっぱり他人の不幸は蜜の味である。
    二番目は、若い夫は地位は低いが精神的には自立的である。妻との関係も互いにリスペクトがあって良好。そのため、最後は、若い夫から上司に「あんたのような学会ハイソの人間の贅沢と傲慢には付き合いきれない」と先制攻撃する。上司とのあいだが決裂するのは同じだが、夫婦仲に危機を迎えるのは上司夫婦の方である。段田康則の上司は、あえなくともさかりえに不倫を断られるのも、若い夫の勝利と言える。このパターンから、大竹しのぶ演じる上司の妻が宇宙のロマンを語ったりして、意外な純な心の持ち主と描かれるのも興味深かった。
    三番目は、最も円満で、実は最も面白みが乏しい(それでも十分面白いんだけれど)。外国の研究者に先を越されたらしいぞ、という上司の嫌がらせにも、若い夫はすでに情報を先に知っていて、逆に、優位に立つ。さらに友人からもっと詳しい話を電話で聞き、上司がくやしがるような、安心と確信を得る。「負け犬」でも「ダメ男」でもないのだから、平凡な幸福の予感で終わるのは当然である。

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    2019/04/12 01:33

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