満足度★★★★
異色の顔合わせの大劇場公演だ。オリザ派・岩井の作・演出、無頼アウトローの松尾スズキが作演出ではなくて主演、ハイソの女優・松たか子がつきあう。音楽に生バンドと前野健太の歌。興業元は劇場休館中のパルコの制作、小屋は東芸プレイハウスへと打って出た。
それぞれの分野で個性の強い活動をしてきた顔合わせだから、さぞ、舞台裏は大変だったろうと同情するが、結果は、お互い忖度配慮の挙句、すくんでしまっている今の社会を反映している。
平成の末とあって、この日本の三十年を回顧するような筋の運びになっているが、松尾スズキが主演ではどうしてもアクセントがそこへ寄ってしまう。明らかに北九州らしい故郷から出てきた主人公が、都会でコンサル業で成功するが、家族も精神も空洞化、再び故郷に帰り家庭を持つ。所詮世界は一人、というストーリー。これではこの顔合わせを生かすパンチがない。
鉄鋼都市が高度成長期に多くの産業廃棄物を海に沈殿させて、繁栄してきたが、この三十年で、その残渣は浚渫された、だが、あの沈殿した廃棄物はどうなったのだろう、とテーマを振られるが、物語がついていかない。三十年にわたる細切れの思わせぶりなシーンを並べ、そこに歌だかなりの数で入ってくる。大劇場向きの本ではない。いつもはキャラの立つ俳優たちも役をつかみかねて、手探りで、姿勢が、前のめりになっている。セットはパイプ管の構成でそっけなく、これで二時間十五分は苦しい。(まだ四日目だから、そのうちにどこか突破口が見つかるかもしれないが)
パルコの意図はよくわからないが、とにもかくにも、いろいろの顔合わせで新作をやってみようという壮図は買おう。今までは、この種の企画はほとんどシスカンパニーの独占で、安全第一でしかも当ててしまうというところが心憎いのだが、東宝・松竹・四季以外で、有力で冒険を辞さない演劇製作の会社がもう一つは欲しい。新国立は絶望だが、ホリプロ、文化村、池袋、三軒茶屋の公共劇場は、失敗を恐れず、頑張ってほしい。