ハッピーな日々 公演情報 ハチス企画「ハッピーな日々」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    ベケット作。
    ウィニー役の岩井由紀子さんが活き活きとしていて魅力的。
    ほぼ彼女の一人舞台で、動きもあまりないのに、最後まで集中して見ることができた。
    素晴らしい!

    そしてセットはびっくりするほど美しい。


    しかし、私が感じたのは、今回の作品が見せたものとはすこし違ったものだった。

    ネタバレBOX

    ベケットの『ハッピーな日々』に登場する男女は、50代ぐらいと60代ぐらいらしい。
    その目で観ていると、長い間一緒にいる夫婦(長い間連れ添ってきた夫婦)に見えてきた。
    作品に、夫婦の「会話」と「存在」を感じた。

    第一幕では「泥」に腰まで埋まった女。それはいい意味でも悪い意味でも、「家」や「家族」「地域」「社会」に縛られている姿。そこからは移動できない。しかし、それを苦にしてるようには見えない。彼女は、それに気づいていないのか、気づかないふりをしているのか。

    あらゆるものが手が届く範囲にあるようにも見える。近くにあるカバンの中には、必要なものが入っているが、何かが足りなかったりする。拳銃は重くてカバンの底のほうに移動してしまいそうなのだが、手を入れるとすぐに出てくる。実は、それが女の願望であるのかもしれない。

    会話は女(妻)から一方的にまくし立てられる。男(夫)は受け身。細かく指図されている様子が、なんだか長年連れ添った夫婦の会話のようにしか見えないのだ。

    したがって、「50代・60代の男女」という設定が、私の、この作品に対するイメージにぴたりと重なる。
    だから演じている役者さんの若々しい見た目からはなんだかずれてきてしまったのだ。

    さらに「泥」も同様だ。舞台の上にはさまざまな明るい色の毛糸によって(富士山のように隆起した)地面があるのだが、それは、やはり「泥」には見えない。

    彼らの(あるいは彼女の)人生で体験したことは、そうしたさまざまな毛糸によって織られてきたのであろうが、その色とりどりの経験は、色が混ざると「灰色(泥色)」になってしまうのではないか、と考えてしまう。それがどんなに美しい経験であったとしても。もちろん、その1つひとつを取り出せば、赤や黄色や青の美しい色であることには変わりはないのだが。

    男(夫)は女(妻)比べて自由に動き回っているように見える。
    逆に腰まで、さらに首まで泥に埋もれた女は、「家」や「家族」「地域」「社会」に縛り付けられているようである。
    第一幕では女(妻)は男(夫)に、中に入るように命じるのだが、男(夫)はそれがうまくできない。女(妻)からは、「入りたくない」ように見えているのかもしれない。しかしそれは、女(妻)からの世界観だ。

    実は男(夫)から見た世界は、女(妻)と同様に、自分だけが泥に首まで埋もれていて(社会とか生活とかに)、自由に動き回っているように見えているのは女(妻)なのかもしれない。

    そうした解釈をしてしまった私としては、今回の作品は、登場人物たちが若々しく、さらに美しい「泥」に埋まっているので、少々違和感を感じてしまったのだ。

    ただ、この(若)夫婦は、今は美しい泥の中にあるのかもしれないのだが、この先、泥(色)に埋もれ、身動きができない状態になっていくのかもしれない、などという悪い想像もしてしまった。

    まあ、ここであえて言えば、「夫婦」あるいは「家族」というものは、そう悪いものではない、とも付け加えておきたい(笑)。

    舞台を見ながら、ピート・シーガーの『Waist Deep in the Big Muddy』を思い出した。
    泥に知らず知らずのうち埋まっていくと、なかなか引き返すことができないものだ。

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    2019/01/19 22:47

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