クロッシング・クリスマス・クリアランス(完全版) 公演情報 バンタムクラスステージ「クロッシング・クリスマス・クリアランス(完全版)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    2018年はこの公演を楽しみにしていた。5年前の初演を観ている。
    出演者も申し分なく、スタッフも豪華。事前に公開された衣装つきビジュアルも良く、期待値が上がった状態での初日はその期待を下回る感覚。愕然とした。自分がこの作品に求めているクオリティはこうではないと、はっきり認識させられた。満足できなかった最大の理由はおそらく、上演時間を2時間10分におさめるための速すぎるセリフ運びと、速いがゆえのセリフ噛み、そしてほんのわずかずつの”間”の短縮ではないかと推察。映像作品のような感覚に陥る、目の前を過ぎてゆくシーンたちの連続に、なんだか「あっという間」感を感じて初日は終わってしまった。再演とは難しいもので、物語は分かっているのでお話に対する感動を改めて感じることはあまりなく、しかも無意味に初演と比べてしまう。この初日の印象がやっと塗りかえられたのが3日めくらい。楽日は大変熱量のある演技、客席のテンションも良く満足いくクオリティだった。
    上演時間はどうやら2時間20分くらいが最適だった様子。アドリブらしいアドリブなど挟まず適切なスピードのセリフ運びと適切な”間”を設定すればそうなる長さの作品なのだ。そこは無理せずやってほしかったが、休憩無し2時間20分と言われたら「きついなあ、どうしようかなあ」と思うのもまた自然なこと。とにかく、無理に短縮するとこうなるのである。

    この作品はとにかく話が良い。どの登場人物のことを思っても、どこかで共感できたり、どんな思いだったんだろうと想像を膨らませることができる。照明はいつもの細川作品らしく青や紫を多用した見えないところを作り出す「ずるい」照明ながらファンタジーパートでは優しいオレンジと緑と赤の照明が穏やかにクリスマス感を演出していた。そしてなんといっても「バンタム銃」である。いつもの銃口の光るモデルガンではなく演者・音響・照明が三位一体となって表現された発砲…はっきり言って、こだわりすぎである笑。体の芯に来る音、そして一瞬視界に広がる光。新宿村LIVEでの新しい表現。良かったです。

    その他いくつかNOを突きつけておきたい。まず舞台の高さ。あの低さでは高さのない座席(XB列・XC列)では見えない部分ができてしまう。チケット発売日にチケットを買ってくれた客が一番観にくい席をあてがわれる。今回一番良くなかった、納得のいかなかった点。それから空間のつかいかた。シーンひとつひとつがこぢんまりし真ん中・右・左と場所を移ることで、前方で観ていると密度が薄まった感じがした(後方から観ていると気にならないのだが)。かつ、前方席は段差が無いので前の観客で隠れてどうしても見えない部分が生まれるのである。もったいなかった。

    不満をつらつら書いたが。良くなかったと感じた初日でも素晴らしかったご出演者多数、そして速すぎるセリフ運びを調整しただろう公演後半はとても良く、クリスマスイブおよびクリスマス当日の公演は素晴らしかった。初日のクオリティはけして高くなかったが、それでも写真撮影イベントのあとにダブルコールというなかなか無いことが起こったのは、観客の感情をそれだけ揺さぶったということ。千穐楽はトリプルカーテンコール、スタンディングオベーション。そこでおもちゃ3人のコールにあわせ「メリー!クリスマース!」と気持ちよく叫べたのは何よりの思い出である。

    以下、ネタバレBOX。

    ネタバレBOX

    初演時よりももっと深く物語に入り込めたと思う。
    ひとえにご出演陣のレベルの高さからであろう。

    弟アルに汚い世界を見せないために裏社会で奮闘したレニー。父親への軽蔑のまなざし、弟への愛のこもった期待のまなざし。アルに「僕の店を穢すな!」と言われて初めて自分がまさに「薄汚い手」の持ち主に堕ちたことに気付いた絶望、ヒューズの死に際に浮かべる自嘲、真実を知ってからの深い悔恨。からの無理矢理アルに会いに来たときの爽やかな笑顔。福地教光さん、いきいきとレニーを体現されていた。まわりが低調だった初日はボルテージを上げすぎず突出することを避けたと感じるマイルドさだったがやがて熱を帯び座組のテンションを文字通り引き上げていったように感じる。長く細川作品に出演しもう手慣れたものの洋画吹き替え的台詞回しが心地良い。バンタムクラスステージに福地教光あり。このひとの演技を観るために自分はここにいると、そうあらためて思わせてくれる熱演。5年間で4度目のレニー、これが最後と思いながらのものだったそうで、冒頭から終幕まで素晴らしいレニーだった。

    父と兄から守られ、おもちゃ達にも守られ、父と兄が銃を持ち歩くようなギャングだなんて想像だにしていなかったアル。レニーとは歳の離れた兄弟ゆえに「僕だけが知らない」という思いのある少年を楠世蓮さんがまっすぐに好演。孤児院に入るときの無表情な姿にさえも魅力を感じる。終盤、2年間何をしていたのかと兄に問うときの表情にもらい泣き。

    初演でアルを演じ再演ではレニーと惹かれ合うボスの娘セシルを演じた栞菜さん。お芝居の巧さは初演でも充分感じたがセシルお嬢さんの栞菜さんも素敵でした。にこりともしないのに美人、つんけんしているのにどこかマイルドで品がある、令嬢として育てられた感じが出ていた。ボストン市警でレニーに寄り添う姿が優しかった。彼女とレニーが息子をしっかり育て上げたこと、それが観客の希望のひとつである。

    セシルとレニーの息子、バーナード・クーリッジJr.は土田卓さん。語り部であるがゆえに動きは少ないわけだがなんのその、いつぞやぶりの白スーツで出てこられ流石の魅力で物語を牽引。レニーと絡むシーンの軽快さも流石。ただ、その土田さんが初日に崩れかけたので「あの土田さんが…」となったのも事実。膨大な台詞量、お疲れさまでした。

    (追記予定)

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    2018/12/30 18:36

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