満足度★★★★★
■『櫻井さん』鑑賞/90分強■
詩人を夢みる主人公の青年が、多くの若手演劇人と重なって見えた。定職に就かないことを家族や知人に咎められながら、好きなことを仕事にできるか分からないまま創作を続ける苦しい胸の内が、似たような苦しみを味わっていたに違いない八年前の櫻井智也の筆によって、実に生々しく描かれている。そして、青年の不安定で歪んだ心を映し出しているかのようなシュールでつかみどころのない、時系列も混然としたストーリーが、かえって迫真性を高めている。八年前の初演が不評だったというのは、劇としてのこの不体裁も一因かもしれないが、悪夢さながらのまとまりのなさは正気からどんどん遠ざかって統合を欠いていく青年の心理状態とも重なって、むしろ劇の迫力を増していると私は感じた。傑作。
しかし、色恋が描かれないMCR作品を観たのは初めてかも。