こっちとそっち 公演情報 劇団時間制作「こっちとそっち」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    17日の午後、大塚の萬劇場で上演された劇団時間制作『こっちとそっち』のBチーム公演を観てきた。この数年観続けている劇団でもあり、今回は久しぶりに知人の古川奈苗が出演するとあって、期待を大にして出かけたのであるが、まさしく素晴らしい作品であった。

    ネタバレBOX

    上演後にあった劇団員によるアフタートークでの作・演出の谷碧仁によると、最近作品を書くときには題材とテーマを別に考えているとか。それから考えると、今回の作品は題材が「地域差別」であり、テーマは「孤独を含めた人と人の交わり」という事になるのだろう。
    舞台は地域差別を受けている谷々皆にあるアパート。大家夫婦の妻・秋与は何かにつけ地域差別を意識し差別をなくそうとしているが、逆にその行動が差別を受ける側として差別する側に対して壁を作っている事に気付かない、高校生の長男慶太は引きこもりがちであったが、地域差別をなくそうという運動を行っている学校の生徒会の会長と級友によって、徐々に心を開き始める。
    101号室の一流漫画家志望の二人の女性のうち美奈子の実力が花壇のそれより優れていることから担当編集の女性の動きもあって、美奈子は有名漫画家のアシスタントのなり、二人の友情は壊れていく。ちなみに、この漫画家達のエピソードのは地域差別はほぼ無関係だ。
    102号室には、地域差別によって単純労働の日雇いしか働き口のない日本人とその同僚の中国人とインドネシア人が仲良く共同生活をしていた。しかし、外国人労働者の麻薬と暴行問題で三人はちりぢりに。孤独に悲しむ日本人労働者・裕也だったが、消え去っていた中国人労働者が裕也を慕ってアパートに戻ってきた。
    202号室の今村真奈は地元・谷々皆地区にいた恋人と別れ東京で暮らし、新たな恋人を伴って戻ってきたのだったが男と価値観の違いに喧嘩ばかり、結局は男がアパートを去ることに。そこに、元恋人が新しい戸籍を買って名前も変えて現れる。元恋人と去って行った男の間で揺れ動く真奈は、結局去った男を追っていく。残された元恋人は、名前も戸籍も変えたのに地域に取り残されて孤独感にうちひしがれる。

    いやぁ、毎回のようにこの劇団は重いテーマを2時間という枠の中に上手く収める芝居をしてくれて脱帽である。舞台上にセットを4面作って4つのエピソードを同時進行の形で展開していく演出とセットの巧みさは評価できよう。途中から目頭が熱くなってくる。これは話の内容に感動してというのではなく、登場人物達の抱く切なさというか運命の重さに、観る者として無力感というか絶望感というかそういう感情からこみ上げる涙なのだ。
    唯一の救いは、大家の長男・慶太が学校の同級生ゆいと仲良くなる結末か。しかし、ゆいはその代償として生徒会長の紗子との関係が切れ、同時に他の生徒からのいじめの対象にされるかもしれないということが想像できるから、すっきりとした結末ではない。切ない結末の一つなのだ。

    役者たちはみな演技達者であったが、そんな中で大家一家の妻役・岡村多加江、漫画家花壇役・古川奈苗、今村真奈役・松嶋沙耶香の演技が光っていた。そうそう、男優では相変わらず田名瀬偉年が難役を上手くえんじていた。

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    2018/11/23 22:14

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