誰もいない国 公演情報 新国立劇場「誰もいない国」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    仰々しくオーバーな表現と論旨展開の応酬が、舞台を見つめている者に「何が
    本当に確かなことなのか」、「ここで起きていることで真実は何なのか」を
    分からなくさせる。そんな作品です。

    ひたすら言葉、言葉、言葉であらすじはほぼ無きに等しいので中盤退屈してしまう
    人もいるかも知れません…。隣席の人は始まってすぐにまどろんでました。

    ネタバレBOX

    主人公は、互いに「詩人」「芸術家」と名乗る初老の男性ハーストとスプーナー。
    舞台は富裕ぶりがうかがえるハーストの自宅の一室のみであり、与えられる確かな
    情報はこれだけです。

    スプーナーの長広舌により、どうやら2人がパブで出くわし、ここに来たらしいと
    いうことが分かりますが、ハーストのよそよそしい態度からそれほど親しい関係を
    築いたわけでもないことが読み取れます。ハーストはことあるごとにアルコールを
    欲し、どうやらアル中の傾向があるっぽい。

    その後、ハーストに仕える2人の若い使用人(らしき男性)の登場を挟み、続く2幕では
    夜を超えて朝になった模様。そこから雲行きが怪しくなり、赤の他人だったはずの
    ハーストとスプーナーが古くからの知人だったばかりか、お互いの親しい女性をめぐって
    わだかまりを持つ仲であることがどちらからともなく語られます。

    みっともない老人同士の金切り声を上げての痴話喧嘩の末、ハーストが異常性癖だと
    告発した後、スプーナーは相手の肩を抱き、類まれなる詩の能力を後進に伝えるよう
    切々と説き始めます。

    しかし、ハーストはその依頼を拒絶し、いつの間にか照明がほぼ落とされて朝か夜か
    分からなくなった室内で酒をいっぱいあおっておしまい、といった感じです。ラスト、
    ほぼ真っ暗な室内に立ち尽くす4人がぶつぶつ意味の分からないポエティックな台詞を
    こぼし続ける風景は軽くホラーでしたね。

    見た通りに出来る限り合理的に判断するなら、2人は友人の間柄で、ハーストは
    スプーナーの申し出を断っただけにみえます。が、2人が友人同士か、芸術家または
    詩人なのか、若者2人は本当にハーストの使用人なのか、確かなことは分からない。
    今挙げたことはすべて本人たちがただ単にそう語るだけで何も証拠がない。

    ハーストはアル中で病院の一室に監禁されてて、永遠に閉じ込められる妄想を見て
    いるのかも知れない。または、医師や看護人を友人や使用人と混同するほど病んで
    いるのかも知れない。

    もしくは、ハースト以外の3人は自身の別人格で、自分の殻を破るよう手を差し伸べた
    ところ、ハースト本人が救いを拒絶して、永遠の精神の闇に堕ちていく過程を見せられて
    いるのかも知れない。

    本来、私たちが小説や舞台に触れる際、向こうから与えられる情報を「前提」「作品内
    設定」として受け入れているわけですが、ピンターはわざと荒唐無稽な台詞を連発させる
    ことによって、その境界をぶち壊し、「どの前提が正しいのか」「そもそも与えられて
    いる前提や設定はそのままこっちが疑いなく呑み込める性質のものなのか」と問いかけます。

    そこで、作品の解釈可能性がグッと拡大し、思いもよらなかった作品受け取りの世界が
    見えてくることを望まれている気がしました。

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    2018/11/16 22:30

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