となりの事件 公演情報 シアターノーチラス「となりの事件」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    都会の人間関係を表面の親近さと内面の疎遠さを浮き上がらせ、家族内でも本心と虚心が存在するという人間の心の危うさを描いた、少し怖い物語。
    (上演時間1時間30分)

    ネタバレBOX

    セットはほぼ素舞台、奥壁に沿っていくつかの椅子が客席側を向いて並べられているだけ。上手に別スペースを設ける。映画「家族ゲーム」(森田芳光監督)の食事シーンを連想させる。この配置は家族という身内、身近な存在であるがよく見えない位置関係にある。隣を注視しない警戒しないという暗黙の了解があるからだ。同時に隣は何をする人ぞという無関心も窺える。また他人には好奇の眼差しを向け、色々観察したがる様子も垣間見える。しかし相手の実像、実態は掴みきれずあくまで興味本位の域である。ここに隣人、特に都会における近所付き合いの本質を表わした表現がある。

    梗概…1年前、隣の家で息子が殺人事件を起こした。並木家の妻は取材陣に隣家の事情を尋ねられたが、正直よく知らない。しかしめったにない機会、自分の存在を示しておきたい軽い気持ち。そこには隣と違い我が家は安泰、たぶん幸せ家族だと思っている。
    しかし一皮剥けば、この家も妹夫婦は離婚話、シェアハウスの居候住人のことや空き部屋の心配。夫婦円満と思っているが実は無関心、長年連れ添ってきた当たり前の風景、惰性マンネリという倦怠期のような…。1年後偶然か、並木家の娘が事件を起こした家の娘に会う。日常の何気ない暮らし、その情景の中、人の心に見えない”鬱積”が不気味に堆積していく様が見て取れる。このあたりの心情描写は巧い。一見、幸せ家族を客観的に見ているのがこの家の娘。その観せ方が直接ではなくカメラという媒体を通して観察しているかのようだ。そしてこの娘にも隠し事がある。客観的にすることで観客目線と同化するようだ。

    公演の面白さは、直接大きな事件を取り扱わず、日常の些細な出来事の不満・心配・苛立など人が持っている説明し難い、またはコントロールし難い感情を実に上手く表現しているところ。幸せはどこにあるのか、本音と建前の会話が情況にピタッとはまる面白さ。もちろん役者の演技力もあるが、室内という緊密空間、家庭(族)から遁れられない不気味さがそう思わせる。会話(台詞)が丁々発止という訳でもない、逆に緩慢なところもある。しかし聞き逃したらいけないような緊張感がある。そこにこの劇団の巧さ、特長があると思う。

    最後に、平凡な家族のあり触れた暮らしを普通に描いているが、自分は”日常生活”の中で演劇に”非日常性”という楽しみ、刺激を求めて観るところがあり、その意味で今まで観てきたシアターノーチラスの公演に比べると少し物足りなかったのが残念。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2018/10/15 22:10

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