満足度★★★★
湖に滴るように、声の浮かぶ静寂。
いや、だからこそ動的・音的な暴力が場に似つかわしくない衝撃となる。
日韓併合の20世紀、無名の植民人は、その粗筋となった元勲を「下す」青年の残像をけだし眺めるばかりだったのか。ここは牢獄。三角模様に、「内地の出先機関」と「国の意思」がいきおい歴史性を帯びながら、断片化して、しかし時系列に語られていく。
思ったのは、テーブルを囲って酒盛りする様子は村社会だ。なぜなら、温度は変わらずとも、それは小社会の湯気を表しており、そういう対比する理屈で外気における虚無を成り立たさせてしまうからである。つまり、倫理観とか、政治とか、極めて高潔な態度を、説明しきれない厳然たる自然が覆い隠す。未知の存在への畏怖。この役を負ったのは所長だろう。媚びる。だが、反発もする。そこには郷土の置かれた経緯といったものもかかわっている。
このような構図において、唯一の部外者は赴任してきた通訳だ。そして通訳が媒介となり、青年を過大評価するに至る。二重性を目の当たりにしてきた、または、する観客において、この2人の対話は透きとおっている。