福島三部作 第一部「1961年:夜に昇る太陽」 公演情報 DULL-COLORED POP「福島三部作 第一部「1961年:夜に昇る太陽」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    意表を突かれた内容だった。数年前アフタートークか何かで谷氏が福島取材について話していたが漸くお目見え、しかも三部作に結実する第一弾とあって期待全開、否、怖々覗き見た。
    第一話は高度経済成長期の日本の地方と東京の構図が軸になっている。その二つを結ぶ鉄道の車中が、当時流行った歌謡曲(失念)がゆったり流れる中ムーヴで示され、一人去り二人去って残ったのが、物理学専攻の東大学生(主人公)、そして男女のカップル。行先は共に主人公の実家福島の双葉町とあって意気投合。芝居の主たる舞台はその双葉町、「日本のチベット」福島県の浜通りである。3年後の東京五輪もまだ遠い(情報伝達状況も当時は違う?)、だが未来は仄かに明るく、貧しくとも活力溢れ、戸外には子どもの世界が広がっていた時代、古き昭和の戦後の人びと(特に地方の)の意識・風俗がいささか戯画的にこれでもかと描写される。そ田舎へ、原発立地の話がやってくる。
    「流れ」に抗うのが如何に厳しかったか、今振り返れば嘘であった「安全神話」を如何にして言い含められたか。そこにどんな「ドラマ」があったか。既に知られている歴史を辿る話ではある。だがそれだけに誘致の話がまとまった時、複雑な思いで見守る主人公(孫)に祖父が念を押すように三度言う「おまえは反対しなかった」、最後には泣きが入り、確信犯的に「現在」の目が重ねられる。それが反則にならず演劇的場面として成立した時、この話を始めた発端の事実(原発事故)が迫ってくる。

    ネタバレBOX

    オラこんな村ァいやだ、東京サ出るだ、でも意中の人(相思相愛)は一緒に東京に行かないという。家を、故郷を離れられない。福島県双葉町(合併して町になったばかりの実質県下最貧の村)、東電社員の男女がミッションを負ってやって来る。意気投合するかに見える主人公の学生との話とは科学の未来について。人間の想像した事は必ず実現してきたのだ・・。学問に恋愛に、未来に熱い情熱を注ぐ青年像、全国の溶鉱炉にまだ火が赤々と入っていた時代のいささかデフォルメされた青年像ではあるが、これを「科学信仰に浮かれていた人間」と見る事も可能な「現在」がある。ただし芝居のトーンはどこまでも快活。
    双葉町では山高帽をかぶってリュックを背負った怪しげな男が出没するという噂、芝居には人形として登場する子供らの間で持ち切りとなり、悪者退治(赤銅鈴之助)、もしくは正体暴露(少年探偵団)の対象となる。この賑やかしい子ども達が、息子(主人公の弟)をいじめたと見て怒り、張り倒しブン投げる母(百花)の姿や、主人公の「彼女」に選ばれたぽっちゃり系女子とのシーンなど、楽しい作りのシーンが展開して飽きさせない。基本福島弁で進んでいくシーンの延長に、いつしか迎えている後半のシリアスな場面がじっくりと見せる。「謎の男」、実は県の公務員で地質を調査していた調査官(東谷)と、東電社員の二人(古屋・大内)、そして主人公の家と懇意である地元議員(大原)が集まり、主人公の祖父(塚越)をまず説得する長い場面が「福島三部作」第1部の核。「当事者」たる彼ら一人一人がどう立ち回った事で原発誘致に至ったか、も重要だが、それ以上に抗い逃れがたい構図にはめ込まれている事実が見えて来る事が重要。長丁場の息詰まる対話には原発誘致を正当化するための論理が凝縮されてドラマチックでさえある。演劇的と言っても良いだろうか。ドラマの登場人物として積極的にたち振る舞うのは誘致賛成側の者たちだ。祖父が所有する買い手のない山林に破格の買値が提示され、笑うしかない実家の者たち。この落差を埋めるべく丁寧に説明を始める東電社員。「それだけの価値があるんです!」原発は安全か否か
    に話の焦点が移ると、東電の男は切り札を切った。広島出身の自分は原爆で兄を亡くし、きのこ雲をこの目で見た。安全でないものならこの私が真っ先に反対する。。素朴な質問に今度は女社員が腹の底から笑いながら言う「原爆と原発は全く別物です(以下双方の原理説明)」。「(原発の安全性を主張できるのは)被爆国の国民である私たちだけなんです」。社会党系の活動に参加している次男坊は言葉にならない苛立ちを漸く言葉にして言う、「被爆国だからこそ原子力の危険性を訴えていくのが筋でねえか」。だが守勢に回るしかない反対派は自らのドラマを立ち上がらせる事はできない。「原子力って本当に安全なのかしら」とやっと口にした母も及び腰。筋書の決まった物語にまんまと乗ってしまう祖父。
    祖父が唯一、意見を訊いたのが長男である主人公だったが、しかし彼は実家に訣別(家を継がない意思)を伝えに帰って来ていた。出稼ぎの父代わりである祖父にその最終結論を伝えるため、彼はその質問に「俺には関係ない事だから」と答えるしかなかった。再び野原での「彼女」との場面。青年も彼女も自分の意思を変えず別れとなる。そして彼女が言う、「偉くならんといかんよ」故郷も私も捨てていくんなら。。激励を胸に、大望を抱いて汽車に乗り込む主人公の後ろ姿で物語は終え、次回予告の字幕で締められた。今回は「先行上演」、ならば続く2部、3部はどんな上演形態に?話はどこに着地するのか?大体の所いつ観られるのか?
    いやいや焦らず待つ事にしよう。

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    2018/08/13 09:24

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