白浪の彼方に 公演情報 山本制作所「白浪の彼方に」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

     タイトルに含まれる白波は、無論、泥棒の意味での白浪である。黙阿弥の得意とした「白浪五人男」「三人吉三」などの白浪物を思い出す方も多かろう。「濡れ手に泡のこの百両・・・」と啖呵を切るお嬢吉三の名場面など、悪漢とはいえ、粋で鯔背な風情を感じさせる。

    ネタバレBOX



     舞台は、台形を少し変形させた5角形、下手側カーテンの奥はベランダ、手前上手側出捌け袖が玄関に繋がる。部屋中央に座卓と球形に近い形のソファー。下手奥のコーナーには机と椅子。 上手奥の壁際には、大小の書棚が設えられており、正面奥中央にも出捌け口がある。
     冒頭、娘と父との電話の場面。娘が辞表を提出し会社を辞めて仕事探しをしているシーンから物語は始まるが、裁判官の父親は、何の相談もなくいきなり仕事を辞めた娘の行動は早計と判断、ちょっと険悪な空気が流れる。
     暫くすると、ドアホンが鳴り「宅配便配達です」との声、扉を娘が明けると配達人が土足のまま上がり込み、ナイフを取り出すと娘を脅して縛り上げた。動機の分からない娘は、泥棒だと思い、財布や机の引き出しに入っていた金をやるから「出ていってくれ」と頼むが、犯人は、そんなことに興味は無いと言いつつも通帳やキャッシュカード、暗唱番号などを聞き出そうともする。だが、通帳の在り処を教えても犯人は、そんなことに興味は無い、と言い始め彼女の個人的なデータに興味を示したり、彼女に促されて                        自分の生い立ちや人生を話したりしてゆくのだが、それで明らかになったのが彼がこんなことをしでかしたのは、実は派遣でこき使われては捨て去られる半生を通じて人生の意味を削ぎ取られてしまったことへの鬱憤ばらしからであった。その為、犯行の目的は、犯罪を働くことより、自分が働き始めて以降蒙らされてきた不条理を他者に理解して貰うことだと考えられる。娘との電話を介して話をしなければならないとやって来た父が、犯人を説得、かなり上手くこの件を収束させることができるかに見えたものの、アイデンティファイできていない犯人は、自分が少なくとも住居不法侵入をし、娘らを脅迫したことによって自らを犯罪者と規定、アイデンティファイしようとする。裁く側の人間達は回避しようとした争いに再び巻き込まれることになる。父はまたナイフを持った犯人を柔道技で投げナイフを使わせないことには成功するが、体が大きく遥かに若い犯人に首を絞められ8階角部屋のベランダにもつれ込む。大きな音がして父はベランダから落とされた、と観客に思わせるが、犯人は殺人という決定的な罪は冒さず去ってゆく。
    犯人が結局、何も盗まず、ネットで予告していた殺人も行わず、初期の目的である己の抱え込まされた不条理を訴えることには何とか成功して終わる点が、今作の救いであろう。

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    2018/07/17 04:03

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