満足度★★★★★
鑑賞日2018/04/21 (土) 14:00
夏の陽射しのような土曜日の昼下がり、3年前に出来た高円寺アトリエファンファーレの扉を開け、劇場の中へと入る。
3年前(2015年)と言えば、奇しくも芸術集団れんこんきすたの『リチャードⅢ世』の初演も、3年前の4月だった。
昼の回は、最前列の真中の席に座り、ふと正面を見ると、すぐ目の前には、長方形の舞台、舞台奥の天井から吊り下げられたシャンデリアがひとつ、その下に白木の飾りひとつないベンチが2台。
舞台装置と言っては、それしかない。
その舞台の片隅に、影のように蹲り座る黒いマントを身に纏い顔さえも黒い布に覆われた人影。時に舞台の周囲をゆっくり巡ったり、隅の暗さに隠れるように蹲ったりする内に、開演時間少し前にもう一人、黒いマントに身を包んだ人影が現れ、舞台の周りをゆっくりと歩く。
3年前、シアターノルンで初めて観た芸術集団れんこんきすたの『リチャードⅢ世』を思い出す。
初演時、この人影は両側を椅子で囲まれた正方形の舞台の下で、蠢いていた。
開場から開演までの30分近く、最初の黒い人影が、途中からは2人の黒い人影が、舞台の周りを巡り、佇み、蹲る。まるで、影のように。
開演数分前、後から現れた黒マント(中川朝子さん)の人影が、舞台の中央に倒れるようにうつ伏せる。その周りをもう一人の黒い人影(濱野和貴さん)が舞台の片隅に蹲る。それはまるで、舞台の上でうつ伏せる黒いマントの人影から抜け出した魂のように....。
やがて、時が満ち、ザワザワと言葉を交わしながら、この物語のリチャード三世を除いた人々が現れ、ベンチへと座り、『リチャードⅢ世』の物語の扉が開かれる。
ベンチから立ち上がったの内、手に白い薔薇を持った5人の男女が、舞台に歩み寄り、続いて残りの6人男女が歩み寄り、11人の男女が黒マントの人影のうつ伏せる舞台を取り囲み、その名を囁くようにくぐもった声でよぶ“リチャード”と。
その男“リチャード”を取り囲むのは、“リチャード”こと、グロスター公リチャード後に悪名高きイングランド国王リチャード三世の陰謀術数により、命を奪われた者達とリチャード三世に寄って全てを奪われた者達。
憎んでも憎み足りない、殺しても飽きたりないその者達が、イーリー司教の手を借りて、既に死んだリチャード三世の軆にもう一度その邪悪でおぞましい魂を戻し、神の裁きが下り永遠の地獄に落ちるまで、弾劾しその手で復讐する為にその名を叫ぶ。
“リチャード起きろ!リチャード!!”と軆の底から憎しみのマグマ吹き出すように激しく強くその名を叫び、陰謀術数、奸計渦巻く、おぞましくも残虐で胸えぐる悲しみに彩られた『リチャードⅢ世』の幕が開いた。
歴史は、その時の為政者、権力者、統治者、勝者にによって、都合の良いように書き換えられ、歪められる事があるというのは、よく言われる事である。
そしてまた、リチャード三世も実像を歪められ流布され続けた一人と言えるのではないだろうか。
初演から3年の時を経て、更に深く濃く、熟成され、自分の中の奥深くに埋まっている醜さの種を抉られ目の前に突き付けられるような、胸に鋭く突き刺さる『リチャードⅢ世』になっていた。
息を潜め、息を殺し、2時間40分という時間さえ感じずに魅入った舞台だった。
文:麻美 雪