底ん処をよろしく 公演情報 東京ストーリーテラー「底ん処をよろしく」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    人は心に「痛み」のようなものを抱えて生きている。本公演…人生という緩やかな時の流れの中で向き合う「痛み」は、親子の確執や死別などの後悔である。人間の心の機微を優しいまなざしで描き出した物語。そのテーマは「人情」といったところであろう。
    構えることなく素直に物語の世界へ身をゆだねることが出来る、そんな安心して観ていられる好公演である。
    (上演時間2時間5分) 【Aチーム】

    ネタバレBOX

    セットは食堂内のテーブル席4つ、上手側には自宅への出入口、中央奥にはレジ台・黒電話、厨房への入口、下手側には店玄関(暖簾)があり、その雰囲気は昭和を感じさせる丁寧な作り。壁にはメニューやカレンダーが貼られ、特にカレンダーは4月から10月に変わり時間の経過を表す細かい演出がされている。

    食堂の父娘と常連客との交わりを通して「食事」や「家族」の問題が浮き彫りになっていく様子は仄々としているが、生活感という重みがある。その描き方は「庶民の腹の味方...安くて旨い食事」といったところ。その精神は先代が書き残した冊子にある。戦後、空襲で焼け出された家族、腹を空かした戦災孤児、無職の帰還兵など、”どん底”の生活に喘ぐ人々のための食堂から始まる。

    シャッター商店街と揶揄されるような場所にある店。客は常連ばかりで売上げが伸びず経営はギリギリ。店主は跡継ぎもいないことから廃業を考えている。そんなところへ元弁護士が...訳ありなのは一目瞭然である。この謎めいた人物の目的は何か。
    食は「命をもらって命に繋ぐ」「腹と心を満たす」といった心に響く言葉が、登場人物1人ひとりの心のヒダに分け入り切ない葛藤がしっかり描かれる。社会や地域の変化は、鳥が高い空から俯瞰するような、一方、市井の暮らしは虫が地べたを這いずり見るような表わし方である。この巨・微のような描き方が物語の世界観の大きさや深みを出す。

    店主の川島隆三(仙崎情サン)は、美味しい物を食べてもらうという信念の下、奮闘するが時代の流れは真心さえも押し流してしまい、閉店を覚悟する。隆三の一抹の寂しさを感じさせる佇まいが印象的である。何とか店を盛(守)り立てたい常連客は色々な工夫をする。その延長上には奇跡のようなことが…。
    本当に人情に溢れた食堂、その隠し味は目に見えない”真心”ではないだろうか。

    次回公演を楽しみにしております。

    0

    2018/05/21 19:33

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大