満足度★★★★★
この「二ツ巴」は諸般の都合でDVD化されなかったが、もう一度観たいし、ぜひ多くの人に見てもらいたい作品である。「猩獣」以外の壱劇屋の殺陣芝居7作を生で観てきた上で、心から再演を願っている。なのでCoRich舞台芸術まつり!グランプリの審査を意識して、コメントしようと思う。
「脚本」
台詞はなくとも物語が伝わるからWordless×殺陣芝居はパフォーマンスではなく、演劇である。
作・演の竹村は、人の弱さや醜さからも目を背けず、それでも人を信じて物語を紡ぐ。殺陣をみせるのだけが目的ではない。
台詞がない分、想像の余地が広がり、観客の数だけ物語が生まれる。販売されている脚本を読んでもう一度観たとしても、受け取り方はひとりひとり微妙に違う。
観劇後に私の印象に一番強く残ったのは、ラストのそれでも生活を続けていくヒロインたちの笑顔と、それを見守る父の慈愛の表情だった。
また、この新しい切り口の演劇は、言葉の壁が無いので世界に発信しやすい。2年後の東京オリンピックの時期に再演して、海外の人の注目を集め、2013グランプリの「木ノ下歌舞伎」のようにパリ公演とかできたら、と夢見てしまう。
「演出」
迫力のある殺陣がもちろん、Wordless×殺陣芝居の最大の魅力だ。ダンスの様なきれいな殺陣ではなく、登場人物ごとに必然性のある動きや殺陣筋が感じられる。アイドルのヒロイン2名ともよくがんばっていたが、特に殺陣芝居2回目の久代梨奈の、初めて剣を手にした時の剣に操られるような動きには、目を奪われた。
人力CGや4Dと呼ばれた「水、川」や「矢」の表現は、生の演劇ならではの演出である。
今までも布を効果的に使った演出があったが、プロジェクションマッピングではなくビニールと照明で、こんな幻想的な「水、川」が表現できるとは、驚いた。「矢」が曲がりくねって飛ぶ場面も、エンターテインメントではあるが、生の演劇でしかできない表現である。
この人力CG・4Dは、ヒロイン2名と水神以外の全員が取り組んだ成果である。
「出演者」
演技賞に悪役の久沓をオススメする!
パントマイマーでもある主宰の大熊隆太郎の持ち味を、余すところなく生かした役どころで、操っている時の顔と手は怖いほどだった。
そしてアクションモブの成長にもふれておきたい。昨年8~12月の「五彩の神楽」を観てきたから、その切られっぷりとハケ方の上達がよく分かる。帽子や剣や農具といった最小限の小道具で、くるりと回って表情から動作まで兵士から農民に早変わりする。ビニールや矢で人力CGもやってのける。本当はこの影の立役者たちにも、演技賞をあげたいくらいだ。
「その他のおすすめポイント」
SNSを多用したPR体制、ファンを巻き込むイベントの数々を始め、小道具や衣装(二ツ巴は壱劇屋の安達ではなく植田昇明だが)や音響照明も、しっかりした路線を持っている。
今後も地方、関西から演劇を発信し続けようとしているところも、応援したくなる点である。
他ジャンルの客演を通じて演劇ファンの拡大を図ったり、ワークショップやアクションモブなどで若手の育成をしているところも好感がもてる。
6~7月 Wordless×殺陣芝居での初の三都市公演「独鬼(ひとりおに)」では、なんと枚数限定ながら高校生以下無料の試みに踏み切っている。これも話題性を求めているだけではなく、演劇ファンの裾野を広げるチャレンジでもある。
このコメントが審査員の目に留まって、何らかの参考になれば、幸いである。
そしてひとりでも多くの人が、こんなに力説するファンがいるなら壱劇屋を観てみようかな~と思ってくれたら、とてもうれしい。