満足度★★★★★
壱劇屋さんの作品の観劇は「五彩の神楽」シリーズ5作品に続いて6作品目になります。
<ストーリー面>
壱劇屋さんのwordless×殺陣芝居シリーズでは、「殺陣」を主軸としつつ、様々な世界観や背景において、
強烈なエモーションに突き動かされた魅力的な登場人物たちによって紡がれる人間ドラマを一貫して描いてこられましたが、
本作もまさにその路線の王道をゆく、期待を裏切らないものとなっています。
<演出面>
「水」「河」「水流」の演出や、弓から放たれた矢の演出などは「あえてこう来たか!!」と唸らされました。
まるで、ステージとセットという既存の舞台芸術の表現空間の解体再構成に挑むかのような挑戦的な姿勢にとても興奮させられました。
そして、それらの目まぐるしい演出を、実質的に数名だけの鍛え抜かれた連携でこなしておられたことにも驚かされます。
<キャスト面>
はじめに、ふたりの父、竹村さん演じる「父」と、岡村さん演じる「主」のお二方の演技の説得力。まさこの物語における二本の軸でありました。
また、「水の神」の赤星マサノリさんや、大熊さん、小林さん、西分さんも、それぞれに個性的な登場人物を実に雄弁に描いておられました。
そして、ふたりの父がこの物語の「二軸」であるなら、NMB48のお二人が演じるふたりの娘はこの物語の「両輪」であったといえましょう。
久代梨奈さん演じる「ともえ」と谷川愛梨さん演じる「トモヱ」も素晴らしい出来だったと思います。
あまり詳しくは書けませんが、まず、谷川愛梨さんの可憐な演技は、NMB48での彼女とは異なる新しい魅力を放っていました。
初めての殺陣も忙しい中たくさん練習を重ねたのでしょう、とても初めてとは思えない堂々としたものでした。
そして久代梨奈さん、前回出演した「憫笑姫」から質量とも各段に増えた殺陣を華麗にこなす姿にも度肝を抜かれましたが、
それ以上に印象的だったのが殺陣シーン以外での彼女の表現でした。
なかでも本作のエンディングシーンにおける、彼女の万感胸に迫る表情には心を鷲掴みにされました。
あのシーンの表現を以って、彼女はこの作品の「主演」としての役割を見事に果たしきったと確信いたします。
<その他追記>
壱劇屋さんのwordless×殺陣芝居シリーズでは、劇中、言語表現としての「台詞」が一切ない(叫び声、うめき声、泣き声などは除く)ため、
受け手はストーリーの詳細までは把握することができず、それらの不足や欠落を想像や脳内妄想で補完することとなります。
当然ながらその過程において、受け手側それぞれに、ある種の「誤解」が生じるわけですが、
壱劇屋さんの、そういった受け手の「誤解」をあえて受け入れ、逆に物語の様々な可能性としてポジティブな意味付けをする姿勢は非常に野心と冒険心に溢れるものであり、
上記の演出面などとも合わせ、舞台芸術の可能性においてさまざまな示唆に富む作品であると感じました。