母が口にした「進歩」その言葉はひどく嘘っぽく響いていた 公演情報 東京演劇集団風「母が口にした「進歩」その言葉はひどく嘘っぽく響いていた」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    硬調演出ながら抒情的な印象の公演。
    紛争で死んだ息子の遺体を捜す父と母_息子の声に導かれ土地の瓦礫の下で重なり合う死者たちの無念が…。そして夫婦を取り巻く奇妙な隣人や泣き女、街灯に佇む1人の娼婦という、不可視と可視を対比するような姿や情景を観客の心象に刻むかのような物語である。
    特に不可視の象徴である息子や各時代における無念の死者たちを描く時空間、その不思議なところに父・母を存在させ、地中から響く過去からの<挫折を余儀なくされた希望>に寄り添うような心の幻影を精緻な眼差しと言葉で追いかけていく。もっともタイトル副題からすれば「その言葉はひどく嘘っぽく響いていた」のかもしれない。
    (上演時間2時間)

    ネタバレBOX

    セットは、客席側へ斜めに傾くような板敷き(八百屋舞台のような)。両側はポールのようなものが立ち、その上部に照明具がセットされ街灯を思わせる。後方は薄い布が張られている。テーブルや椅子が倒れ、藁くずが散乱し荒涼とした情景を出現させている。物語の進展に伴って、板敷きの一部が開いたり、手押し一輪車が持ち込まれる。

    裏切、幻想、ユーモアを通して表現された過去(歴史)と現在(思索)の諸相を見事に表現していた。文献史的ではなく(観客の)記憶史として残るよう力強く訴えてくる。物語は決して派手に誇張するものではなく、どちらかと言えば抒情的で心に染み入るような演出である。

    梗概…紛争が終わり、国の解体と同時に、新たな国境線が出来た故国に帰ってきた父と母。その後景には多くの瓦礫が築かれている。 死んだ息子を待ち続ける母親、息子の遺体を探すため穴を掘り続ける父親。そして亡霊の息子が語るのは、この土地で重なり合い死んだ者たちの姿である。それは終わることなく繰り返されてきた紛争・戦争、生きる人々の姿の中に認め合うことの出来ない価値観、その人間の愚かさが見え隠れする。

    一方、街頭(灯)に立つ1人の娼婦、女装した男娼は現実の世界に生きる。重なり合う死者の遂げられなかった希望に対し、SEX・人種差別そしてマイノリティという観点で今を見つめる。人には「善・悪」「正気・狂気」「陽気・陰気」など対になる顔があるが、それは立場や状況によって変化し、一様に捉えることが難しい。その判別させない意味でのマスクやパペットの利用であろうか。黒衣装はまるで喪服のようであり、盥(たらい)での洗濯する姿(衣装)は生活感に溢れている。この公演は「生・死」、「現実・過去」という対比を強く感じさせ、この先(未来)に思いを馳せているのだろう。だからこそ「進歩」が強調されていると思う。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2018/04/07 15:16

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