廃墟 公演情報 ハツビロコウ「廃墟」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    一幕の濃密な会話劇。台詞の応酬は迫力があり圧倒される。戦後1年という混乱期であるが、日常の生活は足元にあり、当初交わされる会話は淡々としている。家族が食卓を囲むが、団欒の場でそれぞれの主義・主張、心情が吐露されるにともない、物語は最高潮に達したその先にある出来事は...。
    (上演時間2時間)

    ネタバレBOX

    舞台は中央に木製の横長テーブルと椅子、そして裸電球が吊るされている。上手側に木机、下手側は低位に囲った衝立の奥に、粗末な炊事場のようなもの。上手・中央・下手のセットの下に穴がある。この部屋は遠戚に借りているのか、自宅なのか判然としなかったが、いずれにしても屋根裏という設定である。
    防空壕を掘ったのは自分であり、それを埋めるのも自分の責任である。空襲で焼けた家を建てた時の建築費の取立ての場面もあるが、台詞に遠戚から借りているともあった。屋根裏、その「廃墟」のような所が、当時の日本人の心、日本という国そのものを表しているようだ。この場所同様、日本(人)の拠り所は、敗戦という混乱期にある仮の姿(錯乱)なのか、自宅という屋台骨(魂)も燃え尽きたのか。

    父、長男、次男とその妹、その4人がそれぞれの立場で主義・主張を言い張る。4者4様の思いは当時の日本人が思っていたことを代表しており、それは現代にも通じるところがある。父は大学の(日本)歴史学者であり、自分も含め戦争回避出来なかったこと、無作為で知らず知らず戦争へ向かわせてしまった自責の念にかられている。そして闇市の食料は食さず栄養失調になっている。長男は脱資本主義(左翼思想)を掲げデモを計画しており、戦時中は反政府活動のため投獄されていた。自分達だけが反戦活動をしていた良識人と思っている。理想を唱えるが、日々の生活費は微々たるものしか入れない。次男は父、兄のように未来展望を描くのではなく、日々の生活の糧を得るため闇市から物資を調達している。粗暴な振る舞いなど刹那的な生き方である。妹は父、兄達の激論に嫌気がさし、家族仲良くという事なかれの哀願をする。相互に批判し合う姿は、日本(人)の混沌とした状況を映し出す。

    物語は国家観の違いという骨太な内容、それを緻密なプロットと濃密な会話で描いているが、一方、個人的な恋愛感情を持ち込むことによって社会(国)と人間(個人)という観点の異なる出来事を同一場面で表している。色々な事柄を綯い交ぜにし収拾がつかないことが、当時の混乱を表しているようで観応えがあった。

    基本は会話劇であるから動作(演技)が限られるが、穴を利用し出入りさせることで立体感を出し単調にしない、また電球のヒューズ交換という照明効果を入れるなど演出も上手い。そして議論(激高した怒声と観るか、力み過ぎと捉えるか)が高じ、最終的には暴力という人間の本性が露になるような...。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2018/03/16 15:47

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