廃墟 公演情報 ハツビロコウ「廃墟」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    「どんなことをしても生き抜く」が「戦後の奇跡的な復興」につながったのではないか、を感じた。

    三好十郎の作品はどれも骨太である。
    したがって生半可には扱えないのだが、今回は自分たち用に脚本を書き直すことで、自分たちができ、観客に伝えられることができる作品に上手く仕上げていたと思う。

    ネタバレBOX

    少し固いのかギクシャクしたようなやり取りが続き、どうなるものかと心配したが、先生の義理の弟が出てきたあたりからようやくエンジンがかかったような印象。
    一気に面白くなってきた。

    自らに「一人分の戦争責任がある」として、学校を休職し、ヤミの食料は食べない先生は強いと思っていたが、どうやらイヤなモノから目を背けるようなところがあるようだ。家の建築代金を取りに来た女とのやり取りでそれが現れてしまった。取り立ての女の前から姿を消すように防空壕に降り、対応を同居する女性に任せてしまう。
    それが先生の狡さであり、戦中の行動、つまり戦争に反対と考えているのだがそれを表明することができなかった先生の行動に重なってくる。

    ヤミを食べないとしても実際は食べているようだし、休職していても歴史の研究をしたいなんてことを言っていたりする。「御用学者」と言われれば、自分には「一人分の戦争責任がある」と言いながらも、それにつばを飛ばしてに反論する。

    かつて別の劇団で同じ演目を観たことがあるが、そのときには「頑な人」という印象が先生にはあった。
    しかしこの公演の先生には、戦中も戦後も理由をつけて「逃げている」ように見えてきた。
    そして家族や周囲には迷惑を掛けているのだ。

    先生宅には次々と登場人物が現れてくるが、いずれも戦後の日本人を象徴するような人ばかりである。
    特攻帰りで自暴自棄になりながらも逞しく生きる者、特高に捕まり逆に獄中で共産主義を固め、その道を邁進しようとする者、何も考えられずに右往左往している者、正気を失い惚けてしまった者等々。
    その人々が混じり合い、ぶつかり合いながら現在の日本を作ってきたのではないだろうか。

    先生の主張する歴史の見方(「外からの力がない歴史観」)は興味深い。それは理想であろう。歴史は過去を語るということなので主観が入ってしまう。主観には外からの力は入らざるを得ない。したがって先生の理想は達成することはできないのではないか。
    その「理想」を求める先生という存在は、浮き世離れしていると言っていいかもしれない。

    先生とその息子たちは驚くほど議論好きだ。議論をしたいだけなのだろう。
    その議論は、娘の「大切なのは(議論ではなく)人と人との信頼」という一言にかき消されてしまっている。しかし彼らの耳には届かない。
    その議論は今も続いているのではないだろうか。その「問い」の「答え」は未だ見つかっていない。

    先生宅のパンをすべて食べ、犬小屋にいたところを捕らえられた男は、一言も発しない。
    先生たちの議論をぼうっと観ているだけ。
    そして議論の末の乱闘の後、誰にしているのか頭をしきりに下げる。
    この男とその様は、戦争という大きな問いに未だ答えを見出せないまま、とにかく頭だけ下げている現代の私たちの姿なのかもしれない。何が悪かったのかを、きちんと突き止めないままに、とりあえず頭だけ下げている姿。

    以前観た『廃墟』は2時間半を超えていたと思う。
    フライヤーや当日パンフに「上演台本」とあるように、原作に手が入っているようだ。
    先生の弟は、少し軽薄なぐらいのノリの良いもっと軽い人だったように思うのだが、その「浮かれた」ようなトーンは控えめになっていた。
    先にも書いたとおりに、先生宅に登場する人々は終戦後の日本の縮図のようだったので、新しい文化に触れ、自由になったという開放感から浮かれてしまった人もいたほうがよかったように思う。議論好きな先生と息子たちの対比としてもそのほうが印象深いと思うのだ。
    また、長い台詞が整理されていたり、現代の観客が耳で聞いてわかりにくい言葉は削除されていたようだ。
    さらに劇場の構造に合わせて先生宅を「屋根裏部屋」にしていたのではないかと思う。

    いずれにしても上演台本にしたことで、観客としてはヘンに引っかかるところがなく、作品に集中できたのではないだうか。
    つまり、今回は自分たち用の脚本に書き直し、自分たちができ、観客に伝えられる作品に上手く仕上げていたと思う。

    先生には静かに「生きること」を放棄しているような「ズルさ」があるのだが、彼以外は「どんなことをしても生き抜く」という気概が溢れていて、それが「奇跡的な戦後の復興」につながったのではないか、ということがうかがえた。

    当日パンフには役者名のみで役名がないのでどなたが演じたのかはわからないが、先生の弟役の方がいい感じではあった。あったのだが、先に書いたとおり先生の弟のキャラが少し異なっていたので、後半はあまり印象に残らなかったのが残念。
    また先生と2人の息子たちの激しい議論のテンポがとても良かった。しかし激論のときにのみ面白く、そうでないとき(冒頭とか)にもっと観客を惹き付けてほしいと思った。
    先生のところに同居している女性役の方の微妙な位置づけが上手く出ていたと思う。

    それとシンプルなのだが、微妙な加減で徐々に暗くなっていく室内と、電球の明かりの様子、さらにその中で、観客の観劇の邪魔をせず登場人物をきちんと照らす照明がとても良かった。

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    2018/03/16 04:55

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