安吾二篇 公演情報 劇団肋骨蜜柑同好会「安吾二篇」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    鑑賞日2017/11/10 (金)

    新宿眼科画廊で、太平洋戦争の前後にかけて活躍した文筆家・坂口安吾の著作を取り上げた、劇団肋骨蜜柑同好会さんの『安吾二篇』
    10日の晩に『散る日本』(60分)
    11日の晩に『白痴』(75分)
    を観て来ました。

    ネタバレBOX

    まずは『散る日本』。
    1940年代の当時、棋界最強を誇った木村義雄・第14世名人と、対戦者・塚田正夫八段との第6期名人戦の様子を「私(=坂口安吾)」の目を通して記述した観戦記です。

    でっ、会場入りして真っ先に目に飛び込んできたのは、縦1列に敷かれた畳状のボード。
    左右には新聞紙に原稿用紙の切れ端が無造作にバラまかれ…。
    ふと原稿用紙に目を落とすと、そこには『散る日本』の手書きの文面が!
    何処となく、背筋がピシッとするような、気迫が伝わって来る舞台セットです。

    上演中は、その畳状のボードの上を、相当使い込んである将棋盤を隔てて、木村名人役の室田渓人(むろたけいと)さんと、塚田正夫八段役の小林勇太さんとが、一手打とうとする毎にフェンシングの選手のように前進・後退を重ねます。

    その一挙手一投足を「実況」するのが、観戦者たる「私」(演・フジタタイセイさん)。

    「実況」は次第に、敗局濃厚な盤上を睨みつつ苦悶する木村名人の描写に重点が置かれていきます。
    かっては、どんな(汚い?)手を用いてでも貪欲に勝ちを求めに行ったアノ木村義雄が、いつしか、棋界の権威とか風格とかいう形ばかりのモノに取り込まれ、棋力衰えたあげく、今、まさに名人の座を奪われんとす…

    安吾には、その凋落のさまが「神国ニッポン」という、何ら実態を伴わぬ幻想に引きずられるまま、先の敗戦で心底痛めつけられた、かっての我が国の姿にも重なったのでしょうか。ラストシーンでの「私」の絶叫が鎮魂歌のように響いて来て…

    この空間を造り上げた、つゆだく…ならぬ、汗だくだった、お三方の役者さんの、正真正銘の熱演に、帰路についた後も、ずっとシビレっ放しでした。


    21時間後に戻って来た会場には、畳状のボードが、今度は2枚だけ二の字に横に並べられ。こちらの方が将棋の対局の場に相応しいかなぁ(笑)。
    ただし、この場所は
    或る時は、民家の一室であり
    或る時は、映画会社の事務所であり
    或る時は、空襲最中の街の雑踏…。

    終戦間近の東京・蒲田界隈を舞台に描いた『白痴』。
    主人公は、徴兵を逃れるために映画会社に勤めている演出家(演・笹瀬川咲さん)。
    世相におもねるばかりの、映画会社の人々に嫌気を差しつつも、戦局の悪化に伴い、次第に困窮していく生活に追われて、理想に燃えた、かっての情熱の灯も消えゆくばかり…。
    そんな彼が。眉目秀麗なれど自らの意志というモノを持たぬ「白痴の女」、隣家の新妻(るんげさん☜上掲のフライヤーのモデル)と出逢い、密かに共に暮らし始め、やがて空襲の戦火を潜り抜けていくまでの日々を描いた短編です。

    上演中、主人公以外は豚や犬、鶏、家鴨に仮託させたような登場人物達が放つ、一つ一つのセリフや地の文に含意が察せられ、集中して耳を傾けてみました。
    おかげで終演後はヘトヘトになりましたが、理想と現実の狭間に身をやつした末、目に見えるモノを大切にしていこうとする、作者・安吾の決意というものが察せられました(誤読だったらスイマセン、汗!)。

    役者陣。
    何度か舞台を拝見したことがある石黒麻衣さん、小島望さんに、確か初見の兎洞大(うどうだい)さんの堅実な演技に支えられて、主演の笹瀬川咲さん、るんげさんのお二方が、より一層、引き立ったように思われます。

    さらにいえば、石黒さん、小島さん演ずる人物達の(意図的にか?)概ね背筋伸ばし、ヒトとしての温もりをあまり感じさせない風情が、るんげさんの「白痴の女」の童女の清らかさとグニャリとした肉感を併せ持つ「生身の人間」感を、より鮮明に印象づけたように感じました。


    最後に。
    舞台2本、観終わってみて、作・演のフジタタイセイさんが、どうして今どき(☜おいおい)坂口安吾の著作を取り上げたのか、わかるような気がしました。


    【追記】
    2018年3月12日、笹瀬川咲さんが1月にご逝去なされたことを知りました。
    私よりはるかに若い方の訃報は、本当に胸が痛みます。
    笹瀬川さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。

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    2018/03/12 22:47

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