葵上~源氏物語より~ 公演情報 演劇ユニット 金の蜥蜴「葵上~源氏物語より~」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     年一度の公演を続ける金の蜥蜴の本年度公演だ。生の和楽器演奏が入り、舞台を盛り上げてくれるが衣装も豪華である。演劇用の特別仕立てのものもあるが、形は正絹の十二単である。目方もかなりのものだ。ものの本によるとあの時代、女御、更衣らの着ていた十二単の重さは十四、五キロあったという。当然のことながらそんな重い着物を着て何時も姿勢を正して居た訳ではなく、プライベートな時間には寝そべったりしていることが普通だったという。

    ネタバレBOX


     何れにせよ、今とは相当異なる意識を持った時代であったことも事実である。出掛ける時に方位を気にしてみたり、もののけを恐れたりなどという感覚は現代人には殆どあるまい。どだい闇の消された時代に生きている我々にとって深い闇の体験を持つ者は極めて少なかろうし。夜の闇の中、山歩きをした経験を持つ者などほぼ絶無だろうから。
    だが、今作を観る者は、このような闇が例え貴族という上流階級にも日常であったことに思いを馳せなければならない。ま、一般教養として源氏物語を読んでいるのは当たり前のことだから、内容をくだくだしく説明することはしない。今作でも葵上と六条御息所の関係及び源氏が真に心を惹かれていた実母桐壷に生き写しの藤壺との関係については、原作通りキチンと押さえられているし、賀茂の祭りでの牛車の事件なども上手に表現されているばかりではない。生霊となって葵を恨み夜毎現れて苛んでいたものの、殺すには至らなかったものが、呪い殺すに至る決定的経緯がこの事件だから、極めてドラスティックに描かれている。このくだりで能の手法と身体的挙措が用いられているのは無論偶然ではない。能で用いられる音響も含め、ワキ、シテ、ツレなどの役割や、その描く世界があの世とこの世の対比であることや、物狂いの世界であることと密接に関連しているのだ。
     無論、式部の描いた源氏物語の本質、即ち人間存在の不如意と女性・男性の本質、人として在ることの寄る辺なさ故の哀しみと孤独、そして恋に身を焦がす業の深さと己の業の深さを断じようとする人としての意識の葛藤を、極めて端的にそして煌びやかに表現している。場面、場面に応じて演奏される篠笛の音、鼓の音や発声の素晴らしさも劇にのめり込ませてくれる。

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    2018/02/16 01:57

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