その人を知らず 公演情報 劇団東演「その人を知らず」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    文学座・文化座・民藝 ・青年座・東演という新劇5劇団の合同の公演。
    三好十郎の戯曲は骨太で、どれも面白い。
    キリスト教(というよりは主人公の信じる神)の教えを守り、召集を拒み続けた男が主人公。
    彼の戦中・戦後。

    (以下はネタバレboxへ)

    ネタバレBOX

    前に東京デスロックで観たが、それとは違った印象。
    東京デスロック版では主人公(夏目慎也さんが演じた)が、実際に十字架に掛けられているように丸太に両手を縛られて演じていた。
    彼を縛るモノは彼の中にあること、そしてそれは誰から見ても明らかであり、主人公に対する視線が強化されていた。

    それに対してこちらは、主人公を取り巻く人々の視線、戸惑いや憐憫、そして自らに戻ってくる痛みといったものを痛烈に感じさせた。
    彼自身のことよりも、彼の行動により「巻き込まれてしまった」人間の哀しさを感じたのだ。
    「転向しないと生きていけない」世の中において、主人公の存在は、「痛い」ものである。誰もが正しいと思っても同じことはできるはずがない。
    主人公を取り巻く人々の後ろめたさが、逆に主人公の存在の「怖さ」を浮かび上がらせた。

    タイトルにあるものと同様の台詞がラストに出てくる。
    それは聖書の中の一節だが、使われ方は聖書とは異なり真逆。

    ここまでのシーンで登場するのは、主人公の行動に「巻き込まれてしまった人々」だったのだが、ラストの台詞の男は、主人公の心に触れたことで「自ら変化することを選んだ」ということではないだろうか。
    異常とも思えるほどに頑なに自分の信じる神に従ってきた主人公が、本当の意味で影響を与えた唯一の、あるいは最初の、1人なのかもしれない。

    彼を助ける一言に対しても彼は嘘をつくことができず、連行されてしまう。
    どこまで行っても「彼は彼」であったいうことなのだ。
    とても苦しい話である。

    鵜山仁さんの演出は確かだ。思わずこみ上げてきそうになるシーンもあった。
    新劇5劇団の合同公演だけあって、演技はオーソドックスで確実。とてもわかりやすいし感情移入しやすかった。中でも山本龍二さんが印象に残った。

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    2018/01/08 04:56

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