満足度★★★★★
会議劇であった。
いや、正確にはなんと呼ぶのかわからない。そういえば、先に引用した公式サイトの紹介文には「論争劇」と書かれている。要は、『十二人の怒れる男』や『ナイゲン』のような、ある議論や論争を物語の中心に置いた芝居の系譜に属するものなのだ、と終盤になってから気がついた。
昭和63年の秋から平成元年の早春にかけて、昭和天皇の崩御と現在の天皇陛下の即位にまつわる人々の葛藤を描く。
舞台中に散らばったたくさんの紙片と2つのテーブル、そしていくつかの椅子。部屋の片隅に置かれたテレビ。
三方を客席に囲まれた空間は、宮内庁の一室となって、そこに出入りする人々のやり取りがそのまま物語となる。
固有名詞や正式な役職名などをほとんど廃し、「事務の人」や「奥の方」などその人の属性を表すわかりやすい役名で呼び合う。
ある意味歴史の大きな転換期であるけれど、遠い昔というわけではなく現在と地続きと言ってもいい時代である。
劇中で使われる電話を見て(いくら宮内庁でも、オフィスではもう黒電話でなくビジネスフォンを使っていたのじゃないかしら?)などと思ったりしたのは、当時自分もすでに勤め人だったからだ。
葬送の様子をテレビで観て記憶している方も多いだろう。
しかも、形は違えど近くまた元号が変わる予定だったりもする。
そういう意味も含めて面白い題材であった。
だがそれ以上に、それぞれの役割で呼ばれる登場人物たちが、それぞれ輪郭のはっきりしたキャラクターと、シンパシーを感じさせる人間味を持って描かれていたことが印象的であった。
対立したり相手に苛立ったりもしながら、伝統も法律もないがしろにせず、そして何より人の心に沿うかたちで時代の転換となる式典を執り行うために妥協できる点を求め、解決法や抜け道を捜し、とことんまで話し合う。
その様子が、どんなエンターテイメントより面白くて、あまりにもありふれた言い方だが、人間がいる、と思った。